2002年10月28日発行(第2・4月曜日発行)

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聴能情報誌  みみだより  第3巻  第442号  通巻527号


編集・発行人:みみだより会、立入 哉 〒790−0833 愛媛県松山市祝谷5丁目2−25 FAX:089-946-5211
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【目次】第442号

現在,文部科学省は「今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)」に対する意見募集を行っています。総合免許,特別支援学校のアイディアなどが含まれています。読者の方々の賛否のご意見をぜひぜひ送って下さい。教育のあり方は,文部科学省が決めるのではなく,教育を受ける側が作っていくことが原則だと思います。教育を受ける側,現場で教育を行う者,教育の周辺にいる方々の意見を教育の実施に反映させていきましょう! なお,「中間まとめ」は長文で,以下は概要です。全文は以下のインターネットサイトでご覧下さい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2002/021004a.htm



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   「今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)」に対する意見募集について
 
文部科学省では,近年の障害のある児童生徒の教育をめぐる諸事情の変化を踏まえて,障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方,学習障害,注意欠陥/多動性障害(ADHD)など小・中学校に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応等を検討するため,特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議を設置し,調査審議を行い,このたび同会議ではこれまでの調査審議を踏まえ中間的なとりまとめを行いました。つきましては,本件について広く皆様から御意見をいただくべく,下記の要領で意見募集を行います。今後,皆様からいただいた御意見を参考にさらに検討を重ねてまいります。なお,いただいた御意見に対する個別の回答は致しかねますので,その旨御了承願います。
 
1.提出期限   11月25日(月)必着
 
2.提出方法   郵便または電子メール(電話・FAXによる意見送付は不可)
 
3.提 出 先   郵便:〒100−8959 東京都千代田区霞が関3−2−2
           文部科学省初等中等教育局特別支援教育課企画調査係
         電子メール:tokubetu@mext.go.jp
            判別のため題名は【中間まとめ意見】とする。
            セキュリティ上の理由のため,添付ファイルでの送付は不可
 
4.提出様式   「今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)」に対する意見
    1.氏名 2.会社名/部署名若しくは学校名 3.住所 4.電話番号 5.意見
 
※なお,御提出いただいた御意見(記載内容)は,氏名,住所,電話番号を除き全て公表される可能性があることを御承知おきください。

【目次】



   今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)
 
 
−目次−
 
はじめに
 
第1章 特殊教育から特別支援教育へ
・特殊教育の果たしてきた役割
・障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化
 
第2章 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方
・特別支援教育における基本的視点
・「個別の教育支援計画」の必要性
・特別支援教育コーディネータの役割
・地域における教育,医療,福祉等の連携支援体制の構築
 
第3章 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校の在り方について
・盲・聾・養護学校の制度
・障害種にとらわれない学校制度へ
・地域における障害のある児童生徒等の教育のセンター的機能を有する学校へ
・「特別支援学校(仮称)」の役割
 
第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について
・特殊教育に係る小・中学校の制度
・LD,ADHD等の現状と対応
・学校内における特別支援教育体制の確立の必要性
 
第5章 特別支援教育体制の専門性の強化
・総合的な取組の必要性
・国立特殊教育総合研究所の在り方
・国立久里浜養護学校の在り方
 
参考資料(省略)
1.「個別の教育支援計画」について
2.「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」
   調査結果
3.定義と判断基準(試案)等
4.学校数・児童生徒数等の概要
【別添】
・ 特別支援教育の在り方に関する調査研究について
・ 今後の特別支援教育の在り方について(中間まとめ)概要

はじめに
特殊教育を取り巻く最近の状況の変化を踏まえ,21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議が,平成13年1月に「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」をとりまとめ,乳幼児期から学校卒業後まで一貫した障害のある子どもとその保護者等に対する相談支援体制の整備,盲学校,聾学校又は養護学校(以下「盲・聾・養護学校」という。)に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準や就学指導の在り方の見直し,学習障害(LD)等の特別な教育的支援を必要とする児童生徒等への対応などについて提言を行った。この提言の中に見られる基本的な考え方は,障害のある児童生徒等の視点に立って一人一人のニーズを把握して必要な教育的支援を行うという考え方に基づいて対応を図る必要があるというものである。
国及び地方公共団体においては,この考え方に基づいて同提言に盛り込まれた内容の実施に努めてきている。例えば,国は,本年4月に,障害のある児童生徒の就学指導の在り方の見直しを内容とする学校教育法施行令の改正を行い,平成15年4月の入学者から新しい制度による就学が開始されることとなった。
また,本年は,ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が1992(平成4)年に決議した「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たり,障害者の社会参加や生活改善に向けた新たな行動目標について関係国の参加の下で議論されている。国内では,平成15年度を初年度として10年間を見通した障害者関連施策の基本理念,方向性等を盛り込んだ新しい「障害者基本計画」の策定に向けた作業が行われており,年内には新たな計画が策定される予定である。
このように,障害のある者の自立や社会参加を支援するという観点から様々な取組が行われている中にあって,特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議は,「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の提言の基本となっている考え方の下に,障害のある児童生徒等に対する教育の一層の充実を図るという観点から,障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方(障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校に関する作業部会),小・中学校におけるLD,注意欠陥/多動性障害(ADHD)等への教育的対応(小・中学校等における特別支援教育に関する作業部会)について2つの作業部会を設け,様々な分野の有識者や専門家により検討を進めてきた。
 
 
第1章 特殊教育から特別支援教育へ
--- 特殊教育の果たしてきた役割 ---(省略)
--- 障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化 ---
障害者の自立と社会参加は重要な課題であり,近年,教育,福祉,労働など各分野にわたって中長期的な観点からノーマライゼーションの理念を実現するための取組が国内外を問わず進められている。また,特殊教育については,障害の重度・重複化や多様化,より軽度の障害のある児童生徒等への対応のニーズの高まり等を背景に,平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」においても,障害のある児童生徒に対する教育は,一人一人の教育的ニーズを把握し,必要な支援を行うとの考え方に基づいて対応を図る必要があることが指摘されている。
 
障害のある児童生徒の教育をめぐっては,(1)最近では,養護学校や特殊学級に在籍している児童生徒が増加傾向にあり,通級による指導を受けている者も平成5年度の制度開始以降増加してきていること,(2)また,本年文部科学省等が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」の結果から,LD,ADHD,高機能自閉症により学習や生活について特別な支援を必要とする児童生徒も6%程度の割合で通常の学級に在籍していることが考えられること,(3)さらに,盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり,概ね半数近くの児童生徒はその障害が重複しており,肢体不自由の養護学校等では日常的に医療的ケアを必要とする児童生徒が増加していること,知的障害養護学校に多く在籍している自閉症の児童生徒に対する適切な指導法の開発が求められていること,等の情勢の変化があり,これらを踏まえて今後の適切な教育的対応を考えていくことが求められる。
また,これまで障害の判断や指導方法の確立等十分な対応が図られてこなかったLD,ADHD,高機能自閉症に代表される障害の軽い児童生徒への教育的対応が重要な課題となっている。今後は,障害の重い,あるいは障害が重複している児童生徒と分けて考えることなく,一人一人の教育的ニーズに応じて特別の教育的支援を行うという視点に立って,教育的対応を考えることが必要である。特に,近年の国・地方自治体の厳しい財政事情等に鑑みれば,人的・物的資源の量的な拡充を単純に図るという考えは現実的ではなく,盲・聾・養護学校や特殊学級等においてこれまで蓄積された指導の経験やノウハウ等を有効な資源として最大限に活用するという視点で取り組む必要がある。
 
 
第2章 今後の特別支援教育の在り方についての基本的な考え方
--- 特別支援教育における基本的視点 ---
これまでの特殊教育は,障害の種類と程度に応じて盲・聾・養護学校や特殊学級に就学させる等により,手厚くきめ細かい教育を行うことを基本的な考えとしていた。他方,最近の情勢変化に見られるとおり,通常の学級に多く在籍すると考えられるLD,ADHD,高機能自閉症により学習や生活について特別な支援を必要とする児童生徒に対する教育的対応については,従来の特殊教育は必ずしも十分に対応できていない状況にある。これらの障害のある児童生徒を含めて,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,適切な対応を行うという考え方に基づいて対応を図ることが特別支援教育における基本的視点として重要である。
また,障害のある児童生徒にとって,自立や社会参加は重要な目標である。可能な限り自らの意思及び力で社会や地域の中で生活していくために,教育,福祉,医療等様々な側面から適切な支援を行っていくことが求められている。自立や社会参加のための基本的な力を培うため,特殊教育で行われてきた障害に起因して生じる種々の困難の改善・克服のための指導という機能は今後も引き続き不可欠なものである。しかしながら,近年の国際的な障害観の変化も踏まえれば身体機能や構造の欠陥を補うという視点でのみ捉えることは必ずしも適切ではなく,教育の機能を幅広く捉えて,生活や学習上の困難や制約を改善・克服するために適切な教育及び指導を通じて,障害のある児童生徒の主体的な取組みの支援を行うことを特別支援教育の視点として考えていく必要がある。
上記のことを踏まえれば,特別支援教育とは,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,その対象でなかったLD,ADHD,高機能自閉症も含めて障害のある児童生徒に対してその一人一人の教育的ニーズを把握して,当該児童生徒の持てる力を高め,学校における生活や学習上の困難を改善又は克服するために,適切な教育や指導を通じて必要な支援を行うものと言うことができる。もとより,この特別支援教育は,障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するためのものと位置づけられる。この場合に,一人一人の児童生徒の教育的ニーズが何かについて,市町村の教育委員会は,児童生徒本人の視点に立って,専門家はもちろん保護者等関係者の意見等を踏まえて正確に把握するとともに,教育的支援を行う関係者,関係機関等の役割分担を明らかにして適切な教育を行うことが重要である。その際,都道府県の教育委員会との連携や協力も重要な要素の一つになると考えられる。
児童生徒一人一人の教育的ニーズは多様であり,また不変のものでもない。小学校又は盲・聾・養護学校の小学部に入学した者もその実態等に応じて就学先を変更した方が当該者の教育的ニーズに対応した教育が可能な場合があることに留意する必要がある。また,小・中学校の特殊学級や盲・聾・養護学校等の利用可能な人的・物的資源を児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて弾力的に活用して適切な教育を行っていくという観点からも,教育の場を固定したものと考えるのではなく,児童生徒の実態等に応じて弾力的に教育の場を用意するという考え方に立って取り組むことが必要である。
平成11年7月に関係法令が改正され,地方分権の実現に向けて国と自治体との新しい関係の構築や地方行政体制の整備等が図られたが,この中で,就学事務等は機関委任事務から地方自治体が行う自治事務に変更された。今後は,児童生徒の教育についても,地域の実情を踏まえ,また,特色のある地域づくりを行うとの観点に立って自己決定・自己責任の原則の下で各種事務を行うことが求められるため,例えば就学段階においては教育委員会が中心になって,一人一人の児童生徒の教育的ニーズを踏まえた適切な対応が図られることが必要である。これまでの特殊教育においては,障害の程度に応じて,教育や指導上の条件が整った場で手厚くきめ細かな教育を行うことを重視し,障害のある児童生徒の就学指導の制度としては,やや画一的な面があった。前述の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」の提言を受け,国は,学校教育法施行令を改正し,盲・聾・養護学校へ就学すべき基準(就学基準)と就学手続の見直しを行った。これにより,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた教育的対応を適切に行うことが制度的に可能となり,今後は,地方分権の趣旨も踏まえて盲・聾・養護学校など特殊教育において整備された人的・物的資源を活用して,現行制度の一層の弾力化・効率化,教育,福祉,医療等の関係機関の連携の充実等により,一層質の高い教育を行うことが重要である。
 
障害のある児童生徒への質の高い教育的対応を考えるに当たっては,障害の程度,状態等に応じて教育や指導の専門性が確保されることが必要であることは言うまでもない。教科指導や自立活動の指導を通じて学校生活において中心的に児童生徒と関わる教員は,障害のある児童生徒の身近な理解者であり,日常的なコミュニケーションを通じて相互の信頼関係が醸成されることは教育において非常に重要な要素であり,その意味で,児童生徒の指導に直接関わる教員は,特別支援教育の中でも重要な役割を果たすことは言うまでもない。これまでも,このような認識の下で教員の指導の専門性の向上に向けて様々な取組が行われてきたが,今後は,児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して一層質の高い教育の実現を目指して,教員自ら指導面での専門的な知識や技能の蓄積に努力することはもちろん,児童生徒の理解者という認識の下で保護者の相談にも親身に対応していく努力が求められる。
 
児童生徒の指導に直接関わる教員の役割に加えて,校長,教頭等学校教育における指導的・管理的役割を果たすべき者の専門的知識に根ざした児童生徒や地域の実態等を踏まえたリーダーシップの発揮等が重要である。また,障害の多様化を踏まえ,養護教諭,学校医等の学校内の人材の効果的な活用は今後ますます重要になるものと考えられる。また,学校内に限らず,医師,教育心理学者,教員の経験者など専門家を幅広く活用して障害に応じた適切な教育を行う必要がある。例えば,盲・聾・養護学校においては,作業療法士(OT),理学療法士(PT),言語聴覚士(ST)等の専門家が教育・指導に参画するほか,小・中学校においても専門家チーム(障害や障害のある児童生徒への指導等について専門的な知識等を有する者の集団で都道府県の教育委員会等に置かれるもの)が巡回相談などの形で学校の教育において有効に活用されている場合がある。このように学校内外の人材の総合的な活用を図るという視点が大切である。
 
また,家庭において障害のある児童生徒に,教育はもちろん生活全般で幅広く関わる保護者等の役割も重要であることを踏まえれば,保護者も重要な支援者の一人である。保護者が家庭等において子どもと接し,教育や療育との関わりの中で適切な役割を担うことは重要なことであり,そのためには障害や子どもの成長や発達についての知識を深めていくことが必要となる。このため,福祉等とも連携をとりながら相談や情報提供を通じて適切な支援を行うとともに,一般講座やセミナー等の開催を通じて保護者の理解,啓発の促進を図っていくことがこれまで以上に重要なものとなると考えられる。
 
障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して効果的・効率的に教育を行うためには,盲・聾・養護学校と小・中学校の日常的な情報交換はもちろん児童生徒の教育・指導における密接な連携が不可欠である。また,両機関の教員が気軽に意見や情報の交換を日頃から円滑に行えるように都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会が密接に連携協力することが重要となる。さらに,障害のある児童生徒のニーズは教育,福祉,医療等様々な観点から生じ得るものである。これらのニーズに対応した施策はそれぞれ独自に展開できるものもあるが,類似していたり,密接不可分なものも少なくない。従って,教育という側面から対応を考えるに当たっても,福祉,医療等の面からの対応の重要性も踏まえて関係機関等の連携協力に十分配慮することが必要となる。また,福祉,医療等の面からの対応が行われるに当たっても,教育の立場から必要な支援・協力を行うことが重要である。
また,障害のある児童生徒の教育の重要性を理解し,また,草の根的に,独自のネットワークを活用し,献身的に取り組む「親の会」やNPO等の活動の中には,教育の充実や効果的な展開において重要な役割を果たしてきたものもある。今後,行政関係部局や学校において障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して質の高い教育をより効果的に推進するためにもこれらの会等とも連携を図るという視点が重要である。
 
 
--- 「個別の教育支援計画」の必要性 ---
このため,現在,各都道府県等で進めつつある,教育,福祉,医療,労働等が一体となって乳幼児期から学校卒業後まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制の整備をさらに進め,一人一人の障害のある児童生徒等の一貫した「個別の教育支援計画」の策定を通じて,適切な教育的支援を効果的かつ効率的に行うため教育上の指導や支援の具体的な内容,方法等を計画,実施,評価(Plan-Do-See)して,より良いものに改善していく仕組みを取り入れていくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。
 
一人一人の児童生徒の教育的ニーズに応じた教育的対応を行うという取組は,現在,盲・聾・養護学校の自立活動又は障害が重複している児童生徒について作成する個別の指導計画や卒業後の円滑な就労支援を目的とした「個別移行支援計画」の実践研究など,部分的に進められつつあるが,一貫した「個別の教育支援計画」の策定により,障害のある児童生徒の視点に立った各種の教育支援のより効果的・効率的な実施が期待できる。
 
障害のある児童生徒に対する教育的支援は,教育のみならず,福祉,医療,労働等の様々な側面から多様な取組が求められるため,関係機関,関係部局の連携協力をこれまで以上に密接にすることにより,専門性に根ざした質の高い教育的な支援が可能となる。こうした関係機関等の連携を効果的に行う上でも,「個別の教育支援計画」は有効なものと考えられる。
 
また,「個別の教育支援計画」の策定に当たっては,就学前(小学校又は盲・聾・養護学校の小学部就学前までの段階),就学中(小・中学校,高等学校に就学している段階),卒業後(高等学校,盲・聾・養護学校の高等部卒業後の段階),それぞれの段階において,教育,福祉等の関係機関の中から中心となる機関等を定めつつ,地域,都道府県,国の各レベルで連携協力体制を構築していくことが必要である。この場合,例えば,就学中は,盲・聾・養護学校,小・中学校,高等学校等教育関係機関が中心となり,就学前は福祉,医療関係機関,卒業後は福祉,労働関係機関が中心になることが考えられる。これら策定を担当する機関と関係機関との連携協力が円滑に実施されるようコーディネータ的な役割を果たす者の存在が重要であり,また,関係機関においては協力担当者を明らかにすることが効果的である。また,盲・聾・養護学校など策定を担当する機関の中でも,策定を担当する者を明確にするほか,機関内はもちろん他機関との連携や協力を円滑に進めるためのコーディネータ的な役割を果たす者を明確にしたうえで,これらの者の円滑な業務実施を支援する体制の構築が図られることが大切である。
 
「個別の教育支援計画」の策定に当たっては,例えば,盲・聾・養護学校においては,学級担任や児童生徒の指導を担当する教員が中心となって,また,小・中学校等においては,障害のある児童生徒の教育の知識・経験を有する特殊学級の教員等が中心となって,他の教科や学級担当の教員の協力を得つつ,児童生徒の障害等の状況の分析,教育的な支援の目標や基本的な内容等からなる「個別の教育支援計画」の作成を行うことが考えられる。また,例えば,教育,福祉,医療等の分野の専門家や有識者から構成される委員会を関係機関等の連携により設けることは計画の策定作業の円滑化のために有効な方法と考えられる。その際,保護者との話合いをもとにその意向を把握し,児童生徒の状況の分析や指導の目標について理解を得て,教育的支援の目標に向けて学校や家庭における活動の連携を図ることが大切である。
 
「個別の教育支援計画」については,多様な教育的支援の円滑な実施を確保する性格から複数の関係者や関係機関がその作成,実施等の過程で関与する。例えば,乳幼児期において福祉や医療関係機関が得た障害や発達に関する情報や盲・聾・養護学校が教育相談を行うに当たり,保護者から得た情報など様々なものが考えられる。これらは,適切な方法及び内容の教育的支援を行う上で必要なものであるが,個人情報であることに留意してその情報の取り扱いについては保護者の理解を得られるようにすることが不可欠である。このため,各自治体において,例えば,教育委員会が中心になって,または教育と福祉部局が共同で検討の場を設定する等により情報の取扱いの方法について具体的な検討を行っていくことが重要と考えられる。
 
 
--- 特別支援教育コーディネータの役割 ---
教育の立場から適切な対応が求められる学校については,学校内の協力体制だけでなく,学校外の関係機関との連携協力が不可欠である。盲・聾・養護学校には,専門性のある教員や障害に対応した施設や設備があり,ほとんどの教育・指導上の活動は学校内で工夫・実施されることが多いが,例えば,医療的ケアの必要な児童生徒への対応など,医療機関や福祉機関との連携協力が不可欠な場合や,学校外の専門家を非常勤講師に活用することにより,効果的な指導が期待できる場合があるなど,常に児童生徒のニーズに応じた教育を展開していくための柔軟な体制作りを検討することが肝要である。また,小・中学校においては,教職員の配置又は施設若しくは設備の状況から盲・聾・養護学校や医療・福祉機関との連携協力が一層重要である。学校内及び関係機関との連携を円滑に行うためには,障害のある児童生徒等の発達や障害に関する知識を持った者が連絡調整役として学校内の関係者,関係機関,保護者等と情報や意見交換を的確に行うことが求められる。このため,各学校において,例えば「特別支援教育コーディネータ」(仮称)のような,学校内及び関係機関との連携調整役としてコーディネータ的な役割を担う者を指名することにより,関係機関の連携協力の体制整備を図ることが重要である。
 
 
--- 地域における教育,医療,福祉等の連携支援体制の構築 ---
さらに,各都道府県の実態に応じつつ,一定規模の地域を全体的にとらえて,盲・聾・養護学校や小・中学校,医療・福祉機関等が連携協力しながら,地域全体で障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく体制を構築していくことについて積極的に検討を進めていく必要がある。この場合,都道府県において教育委員会から福祉等関係部局を含めた部局横断型の委員会を設置するなど,各地域の特別支援教育の推進体制を促進するための企画・調整・支援等を行う組織を設けることが有効と考えられる。また,地域によっては都道府県又は盲・聾・養護学校と連携を図りつつ市町村が地域の取組の中心となる場合があるが,その場合には都道府県がその取組への協力や支援を行うことが重要となる。
このような仕組みは,障害のある児童生徒が在籍する学校や地域での取組を中心としつつ,当該児童生徒の教育的ニーズに十分対応しきれない部分について関係機関が周りから当該児童生徒の支援を補完していく体制を構築していくものであり,盲・聾・養護学校は,各地域においてその専門性を十分発揮してセンター的役割を果たしていくことが期待され,都道府県教育委員会等においては,関係部局と連携しながら全体的な企画調整を積極的に進めていく必要がある。また,国は,このような各都道府県,各地域の取組を支援していくため,モデル案の提示や,先進的な取組の紹介等,調査研究や情報提供等を進めていく必要がある。
 
 
第3章 特別支援教育を推進する上での盲・聾・養護学校の在り方について
--- 盲・聾・養護学校の制度 ---
盲・聾・養護学校は平成13年5月時点で996校あり,近年はゆるやかに増加している。障害種別にみると知的障害養護学校が増加傾向にあり,養護学校への就学が義務化された昭和54年時点と比較して1.3倍となっている(肢体不自由は1.25倍,その他は同数かやや減少)。これを在籍児童生徒数でみると,知的障害者が大きく増加しており,また,盲者,聾者,病弱者の順で減少している。また,近年,障害の重度・重複化の傾向がはなはだしく,小・中学部全児童生徒数に占める重複障害学級在籍者の割合は45%であり,肢体不自由養護学校においては75%である(平成13年5月)。
 
--- 障害種にとらわれない学校制度へ ---
盲学校は盲者,聾学校は聾者,養護学校は知的障害者,肢体不自由者,病弱者に対する学校として制度上位置づけられているため,例えば,盲学校において知的障害等他の障害のある者を教育(盲との重複障害を除く)することができないなど,地域や子どもの障害の状態に応じて柔軟な学校を設置することは困難である。一方,養護学校においては,知的障害者,肢体不自由者,病弱者及びこれらの障害を含む重複障害のある子どもに対する教育を行う学校の設置運営が可能である。今後は,障害種毎の学校制度から,地域において障害のある子どもたちの教育をより適切かつ柔軟に行えるように学校を設置できるような制度について積極的に検討していく必要がある。
また,盲・聾・養護学校における教育課程編成の基準となる学習指導要領についても,学校制度に対応して,その内容等が規定されているため,例えば,養護学校においても,原則としては異なる障害のある児童生徒を同一の学校に受け入れることを想定した規定とはなっていない。障害種にとらわれない学校制度を構築するに当たっては,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育がより効果的かつ弾力的に行えるようにするとの観点から,学習指導要領の在り方についても検討する必要がある。
 
 
--- 地域における障害のある児童生徒等の教育のセンター的機能を有する学校へ ---
盲・聾・養護学校は,従来特定の児童生徒に対してのみ教育や指導を行う特別の機関として制度上も位置づけられ,多くの人々が同様の認識を有しているものと思われる。しかしながら,今後,小・中学校等において専門性に根ざしたより質の高い教育を行うためには,盲・聾・養護学校は,これまで蓄積した教育や指導上の経験やノウハウを活かして地域の小・中学校等における教育について支援を行うなどにより,地域における教育の中核的機関として機能することが必要である。
盲・聾・養護学校の学習指導要領等においては,盲・聾・養護学校は,「地域の実態や家庭の要請等により,障害のある幼児児童生徒又はその保護者に対して教育相談を行うなど,各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」と規定されている。その学校に在籍する児童生徒の教育・指導やその保護者に対する相談に加えて,地域の小・中学校等に在籍する児童生徒やその保護者に対する相談,個々の児童生徒に対する計画的な指導のための教員への個別の専門的・技術的な相談,地域の小・中学校への巡回による指導など地域の小・中学校への教育的支援を積極的に行うことにより,地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすことが重要である。こうした取組を部分的にではあるが既に行っている盲・聾・養護学校もあるが,今後は,地域のセンターとしての役割を踏まえ,この相談等の業務をこれまで以上に重要なものと考えていくことが必要である。盲・聾・養護学校においては,教育相談の専門の部署を設ける等によりこれらの業務を積極的に行い,地域の教育機関の核となり地域社会の一員として積極的にその役割を果たしていくことを目指した取組が求められている。
 
 
--- 「特別支援学校(仮称)」の役割 ---
このように,今後の盲・聾・養護学校は,障害が重い,あるいは障害が重複していることにより専門性の高い指導や施設・設備も含めた教育的支援の必要性が大きい児童生徒に対する教育を地域において中心的に担う役割とともに,障害の状態により必要となる児童生徒の教育的支援の程度がそれに至らないものが就学する小・中学校における児童生徒の教育や指導に関し,教員や保護者に対する相談を行うなど,小・中学校に対しても教育的な支援を積極的に行う機能を併せ有する学校に転換していく必要がある。また,多様な教育的ニーズに対応するとの観点から特定の障害種のみを受け入れる「盲・聾・養護学校」の制度から,地域の実情に応じて障害のある児童生徒に対する教育的支援を充実することが柔軟にできるように,各自治体において教育的支援の必要性が大きい児童生徒のための教育の場として障害種にとらわれない学校を設けることを可能にする学校制度として「特別支援学校(仮称)」としていくことについて法律改正を含め具体的に検討していく必要がある
 
この「特別支援学校(仮称)」の制度では,各自治体が地域の実情に応じて視覚障害,聴覚障害,知的障害等複数の障害の各々に対応して専門の教育部門を有する学校を設けることが可能となるが,地域によっては視覚障害,聴覚障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることが可能であり,どのような障害に対応した教育や相談の機能を持たせていくかは,地域の実情にも応じて各自治体が弾力的に判断することになる。また,他の「特別支援学校(仮称)」や福祉・医療・労働関係機関とも連携を密にし,地域の障害のある児童生徒の多様な教育的ニーズに柔軟に対応していく必要がある。障害のある児童生徒に対する指導や教育的な支援を行う地域の特別支援教育のセンター的役割を果たす学校への転換を図るためには,校長のリーダーシップはもちろん必要な諸機能を適切に発揮できるような組織体制の整備が重要であり,学校のマネジメントについて十分な配慮が求められる。
 
第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について
--- 特殊教育に係る小・中学校の制度 ---
視覚障害者・聴覚障害者以外にも教育の機会を保障する必要性から,昭和16年の文部省令において,身体虚弱,精神薄弱(現在の知的障害のこと)その他心身に異常のある児童であって特別養護の必要があると認められる者のために教育を行う特別な場として,養護学校とともに,「養護学級」が法制度上位置づけられた。また,昭和22年に制定された学校教育法においては,小・中学校に特殊学級を置くことができる旨規定され,いわゆる中軽度の知的障害者,肢体不自由者,身体虚弱者等に対して,その障害区分毎に,発達の遅れやその特性から小集団における発達段階に応じた特別な教育課程や指導法により固定式の場で教育を行うものとされた。
特殊学級の設置目的は上述のとおりであるが,その整備の過程では,知的障害者等の受入れのための養護学校の整備が十分に進まない中で,障害のある児童生徒の教育機会を確保するために小・中学校に特別な教育の場として整備が進められた面もあった。特殊学級については,その設置の立ち後れから,昭和29年の中央教育審議会答申においてその計画的設置が提言され,漸次,その整備が進められてきた結果,平成13年5月時点で小・中学校において27,711学級が設置され,77,240人が同学級に在籍し教育を受けている。最近は,学級数の増加傾向が顕著であることに比し,在籍児童生徒数の増加傾向はそれほどではなく,一学級当たり2.79人(平成13年5月現在)となっている(盲・聾・養護学校の一学級当たりの在籍児童生徒数は3.04人)。
特殊学級では,在籍児童生徒への障害に応じた特別の教育指導に加えて,通常の学級や他校の児童生徒と交流する交流学習を行うほか,通常の学級に在籍する軽度の障害を有するものへの指導やその教員からの相談を受け必要な支援を行うなど,その専門性に応じた役割を果たしている例もある。
 
通級による指導は,教科等の指導のほとんどを通常の学級で受けつつ,障害の状態に応じた特別の指導を特別の場で受けるという指導形態で,平成5年に制度化され,その対象児童生徒数は大きく増加している。平成5年度に12,259人であったものが,平成10年時点では倍増し,平成13年5月現在で,義務教育段階では,言語障害,情緒障害,弱視,難聴,肢体不自由,病弱・身体虚弱を対象に29,565人が通級による指導を受けている(うち,言語障害が24,850人を占める)。
通級による指導は,障害の状態の克服・改善を目的とした特別の指導を行うものであり,特に必要な場合に教科の内容の補充指導を併せて行うものとされている。また,指導の時間も年間35〜105時間(週1〜3時間が標準)と短時間である。
なお,平成5年の制度化に当たってはLDを対象とすることについては,定義や判断基準が明らかになっていない等の理由により引き続き検討すべき課題とされている。
他方,通常の学級に在籍する児童生徒が,特定の時間,特定の場所で教科指導を含め必要な教育を受ける指導の形態は,学校によっては,LDの児童生徒に限らず,教科学習につまづきのある児童生徒をも対象に,放課後に自由に参加できるいわゆるオープン教室の形で指導を行い成果を上げている事例が報告されている。これは今後の各学校の取組の参考にもなるものと考えられることから国においても事例紹介をする等,こうした各学校の創意工夫を奨励していくことが重要である。
 
平成14年4月に行われた就学指導の在り方の見直しのための学校教育法施行令の改正により,盲・聾・養護学校に就学すべき障害の基準(いわゆる就学基準)に該当しても市町村の教育委員会が障害の状態や学校の状況等を踏まえて総合的な判断を行い,小・中学校において適切に教育を受けることができる特別の事情があると認める場合には小・中学校に就学することが可能となった。こうした児童生徒については,これまで特殊教育で培ってきた指導方法,ノウハウを生かすことがますます重要となるため,小・中学校の学校全体での指導体制の充実や盲・聾・養護学校との連絡・連携が重要である。このため,特殊学級,通級指導教室の教員等障害のある児童生徒の教育についての理解や知識のある者がコーディネータとしての役割を果たすことが求められる。
 
 
--- LD,ADHD等の現状と対応 ---
LD,ADHD,高機能自閉症のある通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への教育的対応は緊急かつ重要な課題となってきている。こうした児童生徒が学級にいる場合,担任教員の理解や経験または学校内での協力体制が十分でないこと等から適切な対応ができない,また,時には,学級としてうまく機能しない状況に至る事例もある。
これらの児童生徒は多様な障害の状態像を示すことがあり,その状態に応じて情緒障害,言語障害等の通級指導教室や特殊学級において教育を受けている状況はあるが,総合的,体系的な対応はなされてこなかった。
LDについては,通級指導教室に関する調査研究協力者会議の報告(平成4年)で初めてその対応についての検討の必要性が取り上げられ,LDに関する調査研究協力者会議の報告(平成11年7月)により,その定義,判断基準,実態把握基準(試案),指導の方法などが示された。また,平成12年度から,LDのある児童生徒に対する指導体制の充実事業が全国で展開されてきており,同会議の示した定義,判断基準,実態把握基準等の検証や学校における適切な指導体制の整備に向けて取り組んでいる。具体的には,小・中学校に校内委員会を設置し学校における実態把握を行うとともに,教育委員会に置かれる専門家チームの意見を踏まえてLDの判断や適切な教育的対応を決定するほか,専門家による巡回指導の有効性の検証を行ってきている。
しかしながら,ADHD,高機能自閉症等については,定義や判断基準が明確になっていないこと等から学校における適切な対応が行われてこなかった。
LD,ADHD等の児童生徒数は,現在の特殊教育の対象者の割合(義務教育段階で約1.4%)に比べて多く6%程度と考えられること,また,特定の学習面で著しい困難を示すLDと,行動面で困難を示すADHDや高機能自閉症とを併せもつ児童生徒がいること,LD,ADHD等については指導内容や指導上配慮すべき点について類似する点も少なくないことから個々の障害毎にではなく総合的に対処することが効率的な場合も考えられることから,これらの実態を踏まえて効果的かつ効率的に対応することが求められる。
本調査研究協力者会議では,ADHDや高機能自閉症について,別添資料にあるように定義と判断基準(試案),学校における実態把握のための観点,指導方法等について作業部会を設置して検討してきた。今後は,同作業部会のとりまとめた内容が実際に学校教育の場で効果的に活用できるよう検証するとともに,学校における適切な指導体制を早急に構築する必要がある。国においては,上述のLDへの指導体制の充実事業を通じて整備を進めている支援体制を拡充し,ADHDや高機能自閉症をも含めた総合的な支援体制の確立に向けて取り組むことが必要である。
ADHDや高機能自閉症は,近年,その対応の重要性が認識されてきている新しい障害であることから,管理職を含む教職員や保護者等への幅広い理解の推進が必要である。
また,LDとともに,ADHDや高機能自閉症といった通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒に関わる教職員の養成や研修を,国立特殊教育総合研究所や都道府県等の教育センター等において積極的に行う必要がある。
ADHDや高機能自閉症等は,個々の児童生徒により多様な状態を示すことがあり,例えば,ADHDの児童生徒が同時に高機能自閉症と判断されたり,同時にLDと判断されることもある。このため,これらの児童生徒の教育的ニーズは多岐に渡ることもあることから,国立特殊教育総合研究所においては,当該児童生徒への具体的な指導方法の実践的な研究を引き続き進めるとともに,これまでの研究成果や実践事例を取りまとめ活用し易いものにするなど,学校や都道府県の教育センター等に対して的確に情報提供することが必要である。
LD,ADHD等について,さらに幼児期からの支援を進めるためには,幼稚園全体で支援しあえるような体制を整備したり,日頃から保護者への理解推進を進めていくような研修等の充実が必要である。また,幼稚園と比べて保育園の在籍幼児数が多い実情を踏まえれば,障害に対応した適切な教育的対応を考えていく上で保育園の役割を軽視することはできない。保育園においても幼稚園と同様の視点から取り組むことが期待され,また,小学校や盲・聾・養護学校の小学部において幼稚園や保育園と日頃からの情報交換を行うことが就学後に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育を行う上で重要と考えられる。
親の会やNPOの中にはLD,ADHD等の理解の促進等を目的に活発に活動を行っているものがある。こうした草の根的な活動は,教育の充実や効果的な展開を図る上で,重要な役割を果たしうるものと考えられることから,親の会等との連携も図りながら取組みを行うことも重要なことと考えられる。
また,中学校を卒業した後は,高等学校へ進学する生徒も多いことから,LDやADHD等へ対応した特別な支援体制を構築することや,研修などを通じて理解推進を進めることが期待される。また,都道府県等の教育委員会に設置された専門家チームが,必要に応じて高等学校への支援を行なうことについて検討する必要がある。さらに,養護学校高等部との連携も重要である。
高等教育段階においても,障害に応じた配慮が各学校においてなされつつあるが,大学で学ぶLD,ADHD等の学生についても,支援の在り方についての研究を進めるとともに,様々な機会を通して大学関係者の理解の促進が図られることが重要である。
 
 
--- 学校内における特別支援教育体制の確立の必要性 ---
このように多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学することを考慮すれば,教職員の理解促進を含め学校全体が組織として一体的に取り組むことを確保する対応体制の構築,特殊教育により培った指導方法・ノウハウの効果的な活用が不可欠であり,また,一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育・指導を行うための計画を作成し,実行するためには盲・聾・養護学校や福祉・医療機関等との連携が非常に重要である。これを踏まえて,ADHDや高機能自閉症等をも含めた,通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒への総合的な支援体制を確立する必要がある。この点で,LDへの最近の教育実践にもみられるように,校内委員会等により学校内の体制整備,専門家チームによる的確な指導,関係機関との連絡・調整役としてのコーディネータ的な役割を果たす者による対応や,少人数指導や個別指導を行うティーム・ティーチング(TT)の活用は,今後の支援体制を考える際に参考となるものといえる。
なお,コーディネータ的な役割を果たす者は,障害のある児童生徒の教育についての知識が求められることから,特殊学級や通級指導教室の担当教員や特殊教育の経験者等がその役割を果たすことが考えられる。
 
小・中学校においてこのような体制整備を図るに当たって,小・中学校に蓄積された人的・物的な資源を積極的に活用することに加えて,非常勤講師や特別非常勤講師,高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の外部人材の積極的な活用を図るという視点が重要である。また,盲・聾・養護学校から巡回による指導等による支援を効果的に受けるための連携協力も重要であり,その意味で,これまで特殊教育で培われた教育や指導上の経験やノウハウを総合的に活用していくことが必要である。
なお,小・中学校においては,学力の向上を目指した個に応じた指導の充実,不登校問題への対応等種々の取組が今後展開されていくことが想定されるが,これらとの有機的な連携に十分留意して,適切な特別支援教育体制の構築を検討していくことが必要である。
 
特殊学級は,盲・聾・養護学校の対象でない比較的障害の軽い児童生徒等に対して適切な教育を行う場として設けられたが,この特殊学級については,特定の児童生徒に対する専門的な指導が可能であるという点を評価する意見がある一方で,その在り方については検討すべき点があるとする指摘もある。たとえば,(1)障害のない児童生徒との交流の重要性に鑑み多くの時間を交流学習にあて通常の学級に在籍する児童生徒と共に学習する機会を設けている実態を踏まえれば,必ずしも,固定式の教育の場を設ける必要はないのではないか。(2)障害のある児童生徒の発達や障害等について専門的な知識や技能を有する特殊学級の担当教員は,小・中学校においては重要な役割を担うべき者であり,通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の教育のためにはもちろん,教育上必要となる関係機関との連携・調整のためのコーディネート役として活用するべきではないか。(3)特殊学級に蓄積された教育・指導上のノウハウや設備・機器は,通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも広く生かされるべきであり,特定の児童生徒のみの特別の場として位置づけることは適当ではないといったものである。このような意見等を踏まえ,特殊教育の中で培われた資源を有効に活用してより質の高い教育的支援を行うということを念頭に特別支援教育の在り方を考えていく中で,特殊学級の在り方を検討することが必要である。
なお,特殊学級を設ける場合には,現行制度上は,障害種別の区分毎に設けなければならない(学校教育法施行規則)。障害に起因する困難を改善・克服するとともに障害に応じた教育を行うために指導上の専門性が確保されることが必要であり,障害の区分毎に教育を行うことは今後も合理的なものと考えられるが,特殊学級は比較的軽度の障害のある児童生徒に対する教育を行うための制度であることを踏まえれば,障害によっては,比較的指導内容等が類似しており,その双方について指導できる能力を有する教員がいるような特別な場合には複数の障害を対象とするなど,各自治体における弾力的な対応も可能とすることができないか併せて検討することが必要と考えられる。
 
通級による指導は,通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童の教育・指導のための制度として設けられ,近年対象児童生徒数が増えていることからもそのニーズは高いといえる。しかしながら,(1)障害の状態の克服・改善を主たる目的としており,LDのように特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う指導が中心となる場合を想定していない。(2)指導時間数が1〜3時間と短時間であり,LD,ADHD等については適切な対応が困難な場合がある。このため通級による指導の制度の目的や指導時間について,より弾力的な対応ができないか検討する必要がある。また,通級による指導の担当教員は,学校内又は関係機関との連絡・調整を行うコーディネータ的な役割を果たして成果をあげている場合が多く,その高い専門性等に鑑み,小・中学校においてコーディネータ的な役割を果たすことが期待されている。
 
このため,特殊学級や通級指導教室について,その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ,障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある。
この際,単に,特殊学級や通級指導教室の教員,設備等の資源のみで対応するのではなく,学校内の教員全体の理解の促進と支援体制の構築,非常勤講師や特別非常勤講師,高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の活用,「特別支援学校(仮称)」や都道府県等の設置する特殊教育センターに相談し,指導・助言が受けられるような体制を構築して総合的に対応するための仕組み作りに取り組むという視点が重要である。
 
制度の在り方について具体的な検討を行う場合に,特殊学級や通級指導教室の制度に必要な改善を行うことのみでなく,固定式の学級を設けず通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることの必要性も含めて検討されるべきものと考える。また,今後の小・中学校等における教育や指導の在り方を考えるに当たっては,その教育や指導に関わる教員が当該小・中学校等の児童生徒への教育的対応のみならず,学校内において障害のある児童生徒に対する適切な指導体制を構築する際や盲・聾・養護学校等から教育上の支援を受ける際の連絡や調整を行うコーディネータ的な役割を担うことにより学校の特別支援教育の先導的な役割を果たすことが重要であり,この点を念頭に学校運営が行われることが必要である。
 
 
第5章 特別支援教育体制の専門性の強化
--- 総合的な取組の必要性 ---
障害のある児童生徒等に対して適切な教育を行うために,教員等の配置,学級編制,施設・設備の整備等様々な面で手厚い措置を講じてきたが,盲・聾・養護学校において,または,小・中学校における特殊学級等においてそれぞれ教育や指導の専門性の向上や両者間における連携・協力,福祉,医療等関係機関との連携・協力が十分であるとは言えない状況にある。今後は,校長,教頭をはじめとした教員一人一人の教育や指導上の専門性を高めること,学校外の専門家等の人材を学校で有効に活用すること,組織として一体となった取組が可能となるような学校内での支援体制を構築すること,関係機関との有機的な連携・協力体制を構築すること等により特別支援教育体制の専門性の強化に向けた取組が重要である。また,国として指導内容や方法の面で重要と考える課題や先進的な課題について積極的に研究が行われ,その成果が研修等により,各自治体や学校における教育の現場に普及させていくことも質の高い教育を行う上で重要な課題である。このため,国立特殊教育総合研究所,国立久里浜養護学校,関係の大学等について特別支援教育を推進していく上での資源として捉え,積極的に活用する総合的な教育体制の構築を目指す必要がある。
 
「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえ,各都道府県において特殊教育免許状の保有率の向上の取組が進められるとともに,国の中央教育審議会教員養成部会において特殊教育免許状制度の改善について審議が進められている。現在の特殊教育免許は教育のできる学校種が盲・聾・養護学校と特定されているが,児童生徒の障害の重度・重複化や多様化の状況に対応して免許制度について改善が図られることは特別支援教育を実現していく高い専門性を確保する基盤を形成する上で極めて重要であり,本協力者会議の審議結果も踏まえながら検討が進められることを期待する。
 
担当教職員の基本的な資質能力を確保する免許制度は特別支援教育を支える重要な基盤の一つである。盲・聾・養護学校の教員を量的な面で確保するため特殊教育教諭免許状を有していなくても教員となることができる特例が設けられていること等の理由から同免許状の保有率が十分でないという実状にあるが,今後は,「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を踏まえて,各自治体において特別支援教育における専門性の重要性を十分に理解し保有率の向上に向けた一層の取組が求められる。また,盲・聾・養護学校の教職員,特殊学級や通級指導教室担当教員について,教育はもちろん,コーディネートに関する資質・能力の向上のため,地域のニーズも踏まえつつ,国立特殊教育総合研究所,都道府県の教育センター,大学等により適切な研修プログラムの提供を行うことが重要である。
 
就学前の子どもに対する教育相談や,乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養護学校の幼稚部や小学部が積極的に取り組むことが重要であり,乳児期から療育に取り組む福祉関係機関の取組に対し積極的に協力,支援を行うことが求められる。また,障害のある者に対し,卒業後の学習機会の充実のため,盲・聾・養護学校は,関係機関と連携して,生涯学習を支援する機関としての役割を果たしていくことも重要である。
 
障害の状態に応じた適切な教育や指導を行う上で先導的な指導方法の開発や体制の構築等が重要であり,これまでも国立特殊教育総合研究所,大学等において関連の調査及び研究が行われてきているが,この成果が円滑に普及され学校で実際に活かされるようにすることが重要である。なお,最近では,脳の発達と学習方法,コミュニケーション等脳科学からの知見の蓄積を育児や学習指導に活かしていくことが重要との認識の下で国内外で脳科学と教育との関わりを重視した取組が行われている。文部科学省においても,個人が有する能力の健全な発達や維持又はその障害の除去を適切に行うとの視点に立って「脳科学と教育」研究を重要な研究分野として捉え今後の取組方策等について検討を行ってきている。言語障害,LDのように脳の発達と密接な関連があるものもあり,障害のある児童生徒等についても脳科学の成果を踏まえて適切な教育的対応を図ることが一層効果的と考えられるものがあるため,これを脳科学との関わりの中で重要な課題として位置づけることについて具体的な検討が望まれる。この場合に,国立特殊教育総合研究所等教育に関わる機関や研究者も積極的な対応を図ることが期待される。
 
--- 国立特殊教育総合研究所の在り方 ---
国立特殊教育総合研究所は,平成13年4月に独立行政法人になった。同研究所の独立行政法人への移行に当たっては,平成13年1月の「21世紀の特殊教育の在り方(最終報告)」において,我が国の特殊教育のナショナルセンターとしての機能を高めることが必要であり,このため,国の行政施策の企画立案及び実施に寄与する研究の推進と実践的な研究の充実,体系的,専門的な研修の充実,教育相談活動の研究と教育相談に関する情報提供等の機能の充実の必要性が提言された。ここで提言されている内容は,今後も有効なものである。
特殊教育を巡る諸情勢の変化,財政的な事情等を踏まえ,より質が高く,より社会的要請に対応した研究を効果的に行う必要があり,このため,LD,ADHD,自閉症等の新たな課題の研究への取組はもちろん,国内外の大学,研究機関等とのネットワークの構築により効果的かつ効率的に研究を実施するための組織体制の構築が重要であり,社会的なニーズの高い課題に応じて総合的かつ弾力的に研究に取り組めるような体制を整備することが必要である。
また,同研究所は,長期又は短期研修,講習会等を通じて,学級担任から指導的な立場にある者も含め教員等の資質の向上のために幅広い分野,領域で貢献してきた。近年では,都道府県等各自治体における研修も活発に行われるようになってきており,今後は,自治体独自で実施することが困難な内容の研修の開催や自治体の研修活動への協力等により,また,情報技術の活用等を通じて,研修活動の一層効率的,効果的な実施に向けて具体的な検討を行うことが求められる。
このように,研究,研修等各種の活動を実施するに当たっては,社会的要請に対応しつつ,障害種にとらわれず弾力的に対応するという視点に加えて,地方自治体,関係機関の取組を補完する,または,支援する機能を有するとともに,関係機関とのネットワークを通じて共同研究・事業の企画,調整を行う役割を担う機関として,我が国全体を視野に入れて,特別支援教育の研究や研修を総合的に推進していくという視点が重要である。
今後とも,新たな課題に対応して国立久里浜養護学校との相互協力により研究,研修活動等に取り組むことが必要であり,特に,これまで養護学校において様々な教育が実践されてきたにもかかわらず有効な指導方法が十分確立されていない自閉症について,大学等の関係機関との連携を図りつつ,国立久里浜養護学校との相互協力の充実を図る必要がある。
 
--- 国立久里浜養護学校の在り方 ---(省略)

【目次】



 「今後の特別支援教育のあり方について(中間まとめ)」について(編集子意見)
 
全般的に「21世紀の特殊教育の在り方」に沿った内容になっていて,LD/ADHD等の対応について多くのページを割き,盲・聾といった個別の障害については,不思議なくらいに触れられていない。さて,その中で私なりに疑問に思った箇所をあげて意見を述べてみたい。
 
1.「特別支援教育コーディネータ」について
職名は何であれ聾学校においては聴能担当者や教育相談担当者が関係諸機関との連絡調整役を務めてきた。私は「コーディネータ」などという上品な職名ではなく,「営業」でよいのではないかと思う。こうした「聾学校の『営業』職」というくらいの取りかかり方ではないと,結局寄り集まって子どものたらい回しの相談に終わるのではないかというような危惧を感じてしまう。
 
2.「特別支援学校」について
特殊学校総合免許状に関連する事項と考えなくてはなるまい。この中では,わざわざ「地域によっては視覚障害,聴覚障害等に対応して特定の教育部門のみを有する学校を設けることが可能」と書いてある。しかし,免許状の総合化が進むなかで,各自治体が弾力的に判断することが実際できるかどうか,各自治体がそこまで考え及ぶかどうか不安は残る。少なくとも,聴覚障害については,手話を使う集団の確保が必要である。このことを考えると,[ 原則「特別支援学校」,聾学校を作りたければ地域で勝手に作りなさい ]という表現で,集団の確保ができる学校が存続できるかどうかわからない。特に今回の中間報告ではLD/ADHD以外の個別の障害についてコメントがないだけに不安が残る。
もちろん通常学校に通う障害のある子どもたちにとってのリソースセンターのような施設が県内の数多くの場所にできることは良いことのようにも思う。例えば,愛媛県で言えば,県内に2聾学校しかなく,川之江市,伊予三島市あるいは御荘町のような聾学校から2時間以上かかる地域に住む聴覚障害児にとって,近所に相談できる「在籍児がいない特別支援学校」があることは良いことかも知れない。しかし,そこで聴覚障害を担当する教員は,十分な機器がない中で,聴力の軽い子どもに対する聴覚的援助・発音発語指導から,聴力の重い子どもに対するコミュニケーション指導,言語指導まで担当するなど,現在の聾学校教師+難聴学級担任という非常に高度で幅広い専門性を持たなくてはならない。果たして,そうしたベテラン教師が,日本中に何人いるのであろうか。また,そこまでベテラン教師を故意に減らすための教員の機械的異動を容認してきたツケをどのように文部科学省は支払うのであろうか。
文中「校長のリーダーシップはもちろん必要な諸機能を適切に発揮できるような組織体制の整備が重要」との記述がある。特別支援学校として多障害に渡る学校を仮に作ったとして,その学校を適切に運営できる学校長は日本にいるのであろうか? 「3月まで高等学校で英語を教えていました」という学校長が急に特別支援学校に来て,どのようにリーダーシップを取ることができるのか。十二分に見渡すことができる社長がいなくて,会社は成立しないと思うのだが。
「絵に描いた餅」というが,特別支援コーディネータ,特別支援学校の教員,特別支援学校の学校長という人材を養成せずして,ハコばかり作り替える「ハコモノ行政」が教育の世界まで浸透していると思うと言葉を失う。
 
3.「専門性の強化」とは書いているけれど・・・
文中「通級による指導の担当教員は,学校内又は関係機関との連絡・調整を行うコーディネータ的な役割を果たして成果をあげている場合が多く,その高い専門性等に鑑み,小・中学校においてコーディネータ的な役割を果たすことが期待されている。」と書いてある。
確かにそうした通級担当教員もいるかもしれない。しかし,そうした高い専門性を持つ教員は全国的に見れば非常に数少ない。1通級学級に1通級担当教員の配置しかなく,前任からの引き継ぎ程度で,就任前の研修もなく,着任後も教員同士で話し合う機会もなく,結局,自腹で夏の講習会に参加するというのが実態ではなかろうか。
 
 
今回,総合免許状に関して「現在の特殊教育免許は教育のできる学校種が盲・聾・養護学校と特定されているが,児童生徒の障害の重度・重複化や多様化の状況に対応して免許制度について改善が図られることは特別支援教育を実現していく高い専門性を確保する基盤を形成する上で極めて重要」と書かれている。
「みみだより」を通して,何度も指摘してきたように,多様な障害,その障害の中でも軽度〜重度・重複のお子さんの相談・支援にあたるために,どうして免許を「総合化」することが改善にあたるのかという理屈がどのように読んでも理解できない。
今回の中間報告は,「さらに専門性を強化し,様々なニーズに個別に応えられる教育」を目指しているように思える。この点で一定の評価をすべきである。これはまさに今後の特殊教育の目標であろう。しかし,聾学校という看板にマジックで二重線を引き,「特別支援学校(聴覚障害)」としたところで何もかわらない。もっと実情に即した,現に問題・課題になっていることに対して,具体的な解決策と指針を明快に示すべきではなかろうか。
 
さらに,大事なことを1つ忘れている。
それは,特殊教育に限らず教育を支えているのは教員一人ひとりであるということだ。
教員一人ひとりが高い専門性を持ち,特殊教育にやりがいを感じ,情熱を傾けられるためには,「広くて薄っぺらな専門性」ではなく,「極めれば極めるほど深くなるおもしろささえ感じるような深い専門性」ではなかろうか。
再度,特殊教育総合免許制は,この中間報告の趣旨に合致しないものであると確認したい。さらに特殊免所持を特殊教員採用枠の絶対条件とするといった採用,専門性を考えず年数のみで行われる機械的異動,特殊学校たたき上げの教員のみが特殊学校の管理職となるような人事制度など教員の採用・異動・人事・研修の在り方について,もっと深く論議がなければ,それこそ「絵に描いた餅」になりかねないと心配する。

【目次】



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