2002年4月8日発行(第2・4月曜日発行)

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聴能情報誌  みみだより  第3巻  第431号  通巻516号


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【目次】第431号

 再び 緊急特集「総合免許状を考える」(3)

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中央教育審議会が2月21日に答申を公表!

「今後の教員免許制度の在り方について」(答申)について

1. 審議経過
 平成13年4月11日中央教育審議会に「今後の教員免許制度の在り方について」 文部科学大臣が諮問し,1)教員免許制度の総合化・弾力化,2)教員免許更新制の可能性の検討,3)特別免許状(免許状を有しない優れた者に特別に授与できる免許状)の活用促進の3点を中心に審議を開始。平成13年12月11日に文部科学大臣に中間報告を提出。その後,関係団体からの意見聴取及びホームページでの一般からの意見募集を実施し,これらを踏まえ,平成14年2月21日に答申をだした。


中央教育審議会「今後の教員免許制度の在り方について」(答申)(抜粋)

(2) 総合化・弾力化と相当免許状主義
 教員免許状の総合化は,現在の学校種別の免許状を複数校種で一くくりとすることなどを意味するが,これは学校種別となっている現行免許制度の根本を変更することを迫る課題である。一方,教員免許状の弾力化は,現行の相当免許状主義を原則としつつ,その例外措置を講ずることを意味するが,現行制度上認められている以下の例外措置は,既に教員免許状が弾力化されている例と言うことができる。

1)特別非常勤講師制度
 社会的経験を有する人材を学校現場に招致するため,特別免許状制度とともに昭和63年に創設された制度。英会話等の教科の領域の一部又は小学校のクラブ活動等を担任する非常勤講師について,都道府県教育委員会にあらかじめ届け出て,免許状を有しない者を充てることができる(免許法第3条の2)。

2)免許外教科担任の許可
 都道府県教育委員会は,ある教科の教授を担任すべき教員を採用することができないと認めるときは,当該学校の校長等の申請により,1年以内の期間を限り,当該教科についての免許状を有しない教諭が当該教科の教授を担任することを許可することができる(免許法附則第2項)。

3)特殊教育諸学校の教員
 小学校,中学校,高等学校又は幼稚園の教諭の免許状を有する者は,特殊教育諸学校の教諭の免許状を有さなくとも,当分の間,盲学校,聾学校又は養護学校の相当する各部の教諭(講師を含む。)となることができる(免許法附則第19項)。

2.教員免許状の総合化・弾力化を検討する背景
(2) 特殊教育諸学校
 特殊教育については,特に近年,児童生徒等の障害の重度・重複化や多様化が急速に進んでいる中で,障害のある児童生徒等の一人一人のニーズを把握し,特別な教育的ニーズに応じた教育を推進することが必要である。このため,障害児教育に関する基本的な専門性を構築しながら,各障害種別に対応した専門性を確保しつつ,多様な障害へ対応することが可能となる総合的な専門性が求められている。しかし,特殊教育諸学校免許状については,昨年1月の「21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の最終報告において提言されているように,特殊教育諸学校免許状が盲・聾・養護学校に分かれていることが現実に合わない状況が生じている。今後,複数の障害に対応した専門性と実践的指導力を有する教員を養成するため,盲・聾・養護学校すべての校種において教授可能とする総合的な免許状の創設を検討することが喫緊の課題となっている。
 なお,特殊教育諸学校の教員は,小・中学校等の教員のいわゆる基礎免許状に加えて,各学校種ごとの特殊教育諸学校免許状の保有が必要とされているが,1.(2)で述べたとおり,特殊教育諸学校免許状を保有していなくても盲・聾・養護学校の教員となることができる特例が設けられていること等から,特殊教育諸学校教員の特殊教育諸学校免許状の保有率は,盲学校20%,聾学校27%,養護学校52%(平成12年5月1日現在)と低い状況にある。このため,特殊教育諸学校免許状を一本化することにより,盲・聾・養護学校の教員の特殊教育諸学校免許状を保有しやすくし,全体としての専門性の向上を高めることが必要である。

3.教員免許状の総合化・弾力化の方向性
(2) 特殊教育諸学校免許状
 特殊教育諸学校免許状については,21世紀の特殊教育の在り方に関する調査研究協力者会議最終報告において提言されているように,障害を持つ児童生徒等の重度・重複化等の課題に対応するため,盲・聾・養護学校に区分されている免許状の総合化を早期に行うことが必要である。

4.具体的方策
(3) 特殊教育総合免許状の創設
 現在,盲・聾・養護学校の別となっている特殊教育諸学校免許状の総合化については,早急に実現すべき課題として,教員養成部会に専門委員会を設けて具体的な検討を進めることとする。


出典:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020202/020202a.htm

【目次】



こうなると思っていましたが,それにしても・・・・


結局,中間報告と同じ答申!


「みみだより426号」に掲載の通り,中央教育審議会は上記の答申とほぼ同じ内容の中間報告を出し,その中間報告に対して「意見募集」を行った。この意見募集には,聾教育関係者,耳鼻咽喉科,難聴児を持つ親などからの「総合免許反対」の意見が寄せられた。しかし,答申は,こうした「意見募集」の結果をほとんど加味していない形になっている。『「意見募集」は単なるステップ』とは思っていたが,それにしても,疑問点には何も答えていない答申結果にはがっかり。

特に2.(2)の文面:
「特殊教育諸学校免許状を一本化することにより,盲・聾・養護学校の教員の特殊教育諸学校免許状を保有しやすくし,全体としての専門性の向上を高めることが必要である。」は,特におかしい。教員養成を学部段階で行う大前提を論議せずに,従来の3領域を一緒にすることで「全体としての専門性の向上」が計れるとは思えない。

   今まで          総合免(教大協案例)

 盲一種  23単位                
 聾一種  23単位   →  特殊総合一種 30単位  
 養護一種 23単位                

  合 計  69単位   →    30単位 ⇒ 約半減

上の式を見ただけでも,総合化は「薄く広く」を目指したものであって,答申に書かれてあるような「専門性の向上を高める」ことにはならないことが明らかである。総合免は所有率UPにはつながるが,専門性向上には決して寄与しない。この点がどうして理解できないのであろうか?

次に2.(2)の文面:「盲・聾・養護学校すべての校種において教授可能とする総合的な免許状の創設を検討することが喫緊の課題」の箇所。

中教審が行った意見募集に対して36の意見があり,そのうち29意見は総合免に対して反対の意見または慎重論であった。関係団体からの意見聴取では,日本教育大学協会,指定都市教育員教育長協議会,日本高等学校教職員組合が慎重論,国立大学協会が付帯意見(=慎重論),全日本教職員連盟,全国特殊学校長会が推進論と分かれており,「喫緊」の状況であるとは思えない。「喫緊」の状況とは,関係者が総意で早急の改正を望んでいることではないか? なぜ「喫緊」なのか,各委員に尋ねてみたい。
その「意見募集」の結果は,初等中等教育分科会教員養成部会(第15回)で報告されている。議事要旨が公表されているので関係部分を掲載する。部会時には,資料4:意見聴取した関係団体からの意見,資料5:中間報告に対する関係団体からの意見の概要,資料6:意見募集に寄せられた意見が配布された。これらの原本は編集部にあるので,希望があれば複写をお送りしたい。


【目次】



初等中等教育分科会教員養成部会(第15回)議事要旨(抜粋)

1.日時 平成14年1月29日(火)10:00〜12:00
2.場所 霞が関東京會舘「ゴールドスタールーム」
3.出席者 荒木委員,宇佐美委員,大南委員,岡本委員,小川委員,川並委員,斎藤委員,田村委員,永井委員,野村委員,平出委員,松尾澤委員,山極委員,横山英一委員,渡辺委員,鳥居中央教育審議会長,木村分科会長,高倉部会長
(文部科学省)結城官房長,矢野初等中等教育局長,加茂川審議官,名取主任社会教育官,辰野初等中等教育企画課長,竹下教職員課長

4.議事  
(1) 中間報告に対する関係団体からの意見
(2) 答申案についての審議
○盲・聾・養護の免許の総合化には,一般からも専門性の低下を危惧する意見がかなり多い。各免許が従来持っていた専門性を勘案しつつ,取得単位が増えるだけではない総合免許状を検討しなければいけない。また,弾力化で小学校の専科を安易に拡大するのは,教科の専門性は向上しても発達段階への配慮が不十分になると危惧している団体があった
○特殊教育の免許状の総合化については賛成だが,その専門性には留意して欲しい。専修免許はその専門領域を明示したほうがよい。
○盲・聾・養護の総合免許で専門性の低下がないようにしたい。ワーキンググループで現在議論しているが,各障害間の調整が必要である。聴覚障害だけでなく(※),視覚障害,知的障害,肢体不自由,病弱の立場でも意見があるだろう。障害教育に共通の資質,専門性を検討している。各障害で固有の,また二種免,一種免,専修免それぞれの専門性がある。障害に対する考え方は10年くらいで変わる。1度免許を取れば終わりということはありえない。医療技術や教育方法の進歩,先端技術等,時代に応じた変化には現職研修で対応するとし,免許取得時に必要なことはこれから検討したい。

→だからこそ認定講習による複数免取得などの方法にメリットがあるのだ!

※編集部注:意見募集に対して36の意見があり,そのうち29意見が総合免に関して,反対または慎重論であり,すべてが聴覚障害関係者からの意見であった。驚くことに,総合免に賛成の意見や他領域からの意見はまったくなかった


総合免許状に関する議論はワーキンググループに移っている。
ワーキンググループの委員は,下記の通り。
 
部会より:      宮崎英憲(東京都立青鳥養護学校長)
           大南英明(帝京大学文学部教授)
           渡辺三枝子(筑波大学心理学系教授)
専門委員会委員:   尾崎亨子(群馬県教育委員会)
           香川邦生(筑波大学:視覚障害)
           木舩憲幸(福岡教育大学:運動障害)
           斎藤佐和(筑波大学:聴覚障害)
           佐竹京子(全国肢体不自由養護学校PTA連合会長)
           西川公司(国立久里浜養護学校長)
           物部長仁(秋田県教育委員会)
           山本昌邦(横浜国立大学)
総括:文部科学省初等中等教育局教職員課 免許係 高田,安部
   TEL:03-5253-4111(内線 2453・2457),FAX:03-3508-4409
 
 このワーキンググループでの議事要旨が公開された。
 なお,文面中,ゴシック体,アンダーラインは編集部が付けた。
 随所の枠組は編集部によるコメント。
 

【目次】



中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会
特殊教育免許の総合化に関するワーキンググループ(第1回)議事要旨(抄)


1.平成13年12月14日(金)10:00〜13:00
2.霞山会館「たけの間」
3.出席者: 大南委員,尾崎委員,香川委員,木舩委員,斎藤委員,佐竹委員,西川委員,宮崎委員,
物部委員,山本委員,渡辺委員,高倉教員養成部会長
(文部科学省) 竹下教職員課長,池原特別支援教育課長,高口教職員課課長補佐,新谷特別支援教育課課長補佐
 
4.議事(○=委員,△=文部科学省)
○特殊教育教諭免許状保有率をみると,全体で50%程度となっているが,専門性が必要であるにもかかわらず,現状は専門性がそんなに高くないということか。
○総合化の検討をする際に,自立活動を担任する教員の免許状や盲学校特殊教科教諭免許状(理療)などの特殊の教科の免許状はどういう扱いにするのか。
○自立活動を担任する教員の免許状については,盲・聾・養護学校全体に関わってくるものなので,総合化の検討に際して含めるべきではないか。
○特殊教育の総合免許状は必要であると考えるが,それは次のような点からである。一つは,障害の重度・重複化への対応として特殊教育の基礎的・全般的な素養が求めれられており,この点から特殊教育の総合免許状が必要であるということ。二つには,養護学校教諭免許状を取得した者が,聾学校に配置されると,聾学校教諭免許状を認定講習において取得しなければならなくなる。このような配置上の問題とも関係し,特殊教育の総合免許状が必要ではないか。三つ目は,大学の教員養成上の課題として,教育実習などの実践的な科目は役に立つが,座学はあまり役にたたないという声が現場の教員に多いということ。四つ目は,大学の教員養成課程の大半が知的障害中心で肢体不自由や病弱はほとんど扱っていないということである。


 「養護学校教諭免許状を取得した者が,聾学校に配置されると,聾学校教諭免許状を認定講習において取得しなければならなくなる。」 どうして,これが総合免の必要条件になるのだろうか? 認定講習で学ぶことは,学部で学ぶより,より新しい時期に学ぶことになるので,より新しい内容を学習できるであろうし,実際に子どもを念頭に講義を聴くことができることは学部段階の養成より効果的とも考えられるのに・・・・


○現状では,同じ盲・聾学校に20年や30年も在籍している教員が多く,人事が固定化している。これからは,障害児教育全般の専門家が必要である。また,実践的な指導力のある教員が必要とされており,大学の科目においては,演習や体験的な科目が必要である。


 完全な事実誤認。20年以上異動しない教員は年々減少し,これが盲・聾教育の専門性の低下を招く原因にもなっている。


○特殊学級を担任する教員の免許状については,どうするのか。
△様々な課題を視野に入れて検討を進めるということも必要であり,特殊学級を担任する教員の専門性を高めるという視点も必要。しかし,昭和62年の教育職員養成審議会の答申以来結論されている状況にある中で,当ワーキングとしては,来年の夏までに盲・聾・養護学校の教員の免許状の総合化を検討することが必要であり,審議については総合化を中心に議論していただきたい。ただし,特殊学級を担任する教員の専門性の向上についても将来的に議論の芽を出すような形で検討はしたい。


 結局,特殊学級担任については棚上げ,先送り。総合免より今まで特殊学級担任の資格についてこそが「喫緊」の課題ではないのか!


○ポイントは専門性を担保しつつ,いかにして総合化を図るかということ。現行の二種免許状を取得しやすくし,子どもの障害の状態に幅広く対応させる。一種免許状はより専門的なものにする。大学の養成段階で一定の知識を身に付けておかないと,特殊学級,通級,ADHD等への対応ができない状況にあり,二種免許状については,小・中学校の通常の学級を担任する教員にも取得してもらいたい。また,専修免許状取得者が学校の中心的な役割を果たしてもらいたいが,現状ではそうなっていない。学校に籍をおきながら大学院に通う方策や現職教員の大学教員としての活用も検討するべき。自立活動を担任する教員の免許状については,盲・聾・養護学校の教員の免許状を有する現職教員が教員資格認定試験を受験して取得しているという状況にあり,非常に専門性が高いと評価されている。今後の検討の中で,自立活動について専修免許状に位置づけるなど,検討をしてもらいたい。
○秋田県の状況をいうと,特殊教育教諭免許状の保有率は90%を超えており,県全体としては100%を目指している。免許状を取得していない教員には,取得するよう指導している。その成果として教員が特殊教育に対する専門的知識と自信を有している。また,県全体の方針として,教員が一つの学校に長く勤務することによるマンネリ化を防ぐため,人事異動については,校種に関係なく7年目途で自分の経験したことのない学校へ異動させている。これにより教員は3〜4校の経験をすることになり,総合的に専門性を高めていくことができる。特殊教育の総合免許状については,専門性をいかに担保するのかということが課題である。その上さらに専門性を高める仕組みが必要。特殊学級を担任する教員については,特殊教育教諭免許状の保有率は31%ぐらいであるが,採用が1年目,2年目の教員が半数を占め,保護者とのトラブルが多い。このため,特殊学級へ指導主事や養護学校の教員が指導に行っていたり,特殊学級を担任する教員が養護学校へ研修にきている。特殊学級を担任する教員についても特殊教育の専門性を身に付けることが必要。


 その通り!


○聾学校は専門性に固執しすぎるとの批判を聞くこともあるが,そのことと免許制度のあり方の検討とは別の問題である。聾教育には,目に見えにくい専門性があり,盲・聾・養護学校の教員の免許状の総合化が避けられない場合も,免許の階層化によって必ず聾教育の専門性が確保できるようにすることが必要。また,各学校に一定数の専門性の高い専修免許状を取得した教員を配置するようにしてもらいたい。
○知的障害で視覚障害を併せ持つ子供もかなり増えてきており,盲だけ,聾だけの専門性では対応できなくなってきている。障害児教育全般のベースとなる知識が必要であり,その上に各障害種の専門性を身に付けさせることが必要。また教員養成の問題だけでなく,現職教育をどうするのかも重要な課題である。


 このことに対処するためには認定講習を含めて,複数免所持を推奨すれば良い。


○大学内で特殊教育の総合免許状の検討を行っているが,総合化した場合,どのようにして専門性を確保するのかということについては,専修免許状を視野にいれないと検討できない。学校の指導体制にも関わってくる。


 仮に学部段階で総合免であれば従前の二種免に位置づけ,特殊学校教諭は専修免許状=大学院修了レベルを教員採用試験の募集要件にするといった専門性確保の対策が必要であり,免許制度のみをいじるだけでは本当に障害児教育はガタガタになってしまう。


○保護者は障害について基本的な知識を持っている。保護者の信頼を得るためにも,教員は様々な障害について最低限の知識を持つべき。
○様々な障害種に対応できることが必要であり,リーダーとなる高度な専門性を有する人が各学校に数人いるようにしてほしい。

【目次】



中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会
特殊教育免許の総合化に関するワーキンググループ(第2回)議事要旨(抄)


1.日時 平成14年1月15日(火)14:30〜17:00
2.会場 霞山会館「霞山の間」
3.出席者:尾崎委員,香川委員,木舩委員,斎藤委員,佐竹委員,西川委員,物部委員,山本委員,渡辺委員,大南主査,宮崎副主査,(文部科学省)竹下教職員課長,池原特別支援教育課長,高口教職員課課長補佐,新谷特別支援教育課課長補佐
4.議事
 配付資料の説明の後,「教員の資質能力について」担当委員からの意見発表が行われた。(○=委員,□=意見発表委員,△=文部科学省)。
 
聾学校教員について
(質疑)
△初任者の教員として最小限必要な専門性は,現在の聾学校の教員ではどれぐらい身に付けているのか。専門性として必要なことは,現在の大学の養成カリキュラムの中では十分に満たしていて,それを絞っていく段階でもこれだけは必要であると理解して良いのか。
 リーダー的存在の教員として必要な専門性について,専修免許状は自分の関心のある聴覚障害教育の分野について専門的に深く研究していくものと考えると,全員が身に付けておくべき専門性か,あるいは専修免許状を持っている者を複数合わせていって,こういう専門性が必要だということか。
□大学では,意見発表した内容を,大体やっていると思う。認定講習の場合にも6単位で薄くしてではあるがやっている。盲と聾という感覚障害は,学校にいって初めて学ぶこともある。大学において一応知識を教え,実習ももちろんやるが現場での研修は非常に大きな要素を持っている。ただし,ここ10年ぐらいは現場に初任者の教員に教えることができるリーダー的存在の教員は少なくなっている。
 リーダー的存在の教員として必要な専門性については,共通の部分と選択の部分がある。聴知覚の方にウェイトがある人,言語指導にウェイトがある人,コミュニケーション特に手指系の方にウェイトがある人と得意分野を設定していく形で良いと思う。ただ,1番から5番ぐらいまでとか,重複の問題ということは共通に入っていた方が良いと思う。どれを選択するのかということは,今後の課題である。
○福岡教育大学の例でいうと,聴覚障害教育について理念・歴史・制度あたりが2単位,心理・生理が4単位,自立活動に関する内容が6単位の12単位分の授業科目を用意している。福岡教育大学は,準ずる教育に関わる内容と重複障害に関わる内容のところが弱い。
知的障害養護学校教員について
(質疑)
○就学前に心理判定員などが行った検査やその結果の解釈を理解して教育につなげるというところと,検査の実施も解釈も教員が全部やるのとではずいぶんレベルが違う気がするのだが,教員が全て行うと考えているのか。
□簡単なものについては,できた方が良いと思っている。例えば,WISC−Rや遠城寺式など。少なくとも検査が何を目指しているのかということについては知っておいて欲しい。また,専修免許状を取得する場合には,大学院生にぜひ学校現場で実習を行ってもらいたいと思っている。その人達が学校へ来て検査を実施し,それを教員が学んでいくことが必要。
○現状では,知的障害の方の進路指導,進路発達の研究はほとんどされていない状況であると思う。職業教育と区別して,進路指導についてどの程度,教員は知っている必要があるか。また,現状はどうなっているのか。
□結局,学校に入ってから進路指導部に入り,対応するというような形にならざるを得ない。現状は職場の開拓であったり,就職先への訪問で指導する程度である。少なくともキャリアガイダンスのようなことは,一般論として学んでおく必要がある。例えば,一般企業の面接で声優になりたいと言って落とされた生徒がいる。実際はそういうことは憧れであって,自分の仕事は仕事として分かるのだが,そこが渾然として,非常にレベルが高い生徒でもそういう状況である。そういうことがあるということが分かった上で指導していくのといかないのでは違う。
△ここで想定されている知的障害養護学校の教員に求められる専門性というものは養護学校にいる免許保有者はどの程度身につけているのか。
□免許保有者はこれらについてほとんど身に付けていると思う。例えば大学では1,2,3あたりはかなり整理されて指導を受けてきていると思う。ただ,これは教育実習や現場を知って分かっていく部分もある。重要なのは個別の指導計画が知的障害教育の場合には,全教育課程の中で整理をしていくということで,自立活動の考え方が認知障害や肢体不自由等と少し違うところがある。発達の遅れや偏りに対応するという部分がある。このあたりは実際場面を見ながら指導していくしかないのかと思っている。授業論とか広汎性発達障害等への対応については大学において学んでいると思うが,実際子どもと対応してみなければ分からない部分がある。
○養護学校間での人事の交流について重複障害学級や肢体不自由養護学校,知的障害養護学校の両方を経験している教員を求めることはあるのか。
□やはり両方経験していくことで分かる部分,あるいはいくつかの障害種を経験することで学ぶことは非常に多いと思っている。
○知的障害と社会については,大学では正直に言って一番弱いところである。12名の教官がいて6専攻ある。知的障害や自閉症について話ができる教官が4〜5人いる。教官が12名いていろんな専攻を持っている大学と,3〜5名程度の教官の大学とでは少し事情が異なることがあると思う。
○聾学校のリーダー的存在の教員として必要な専門性として乳幼児から高等部卒業まで各年齢段階における両親支援を挙げており,盲・聾・養護学校では非常に大事なことと思う。そのあり方は決して一様ではなく,やはり年齢に応じて変わっていくので,教師になる人にそのことを教育することは必要。
 
病弱養護学校教員について
(質疑)
○初任者の教員として最小限必要な専門性の中の教科指導について,視覚障害教育や聴覚障害教育では教科の専門性をしっかり身に付けた人が必要である。盲学校でも教科の指導法をしっかりと身に付けた上で視覚障害教育に関する内容がさらに必要である。病弱教育の場合,教科の指導法を身に付けた上でさらに必要となるものは何か。
□病弱養護学校にもいろんな子どもがいて,教室で普通の小中学校の児童生徒と同じように学習できる子どもばかりではない。ベッドで寝た状態とか,いろんな子どもがいる。基本的には小・中学校等に準じた教育を行っている。病気の子どもの多くは最初から病弱養護学校にいるわけではなく,病気になって入院したら隣に養護学校があるので入院し,その間養護学校で学んで,直ったらまた,元の学校に戻る。子どもの関心は非常に教科学習の志向が強い。病気の子どもだから疲労した状態に対してどう配慮するとか,少し自立活動の内容にも関連するが,健康状態に配慮してどのように教科指導できるかということも必要。
 
自由討議
○視覚障害教育では,中途失明者あるいは急激に障害の状態が変化することにより本人が動揺することがある。また,障害児が生まれるということに対して親が非常に動揺する場合がある。どのようにサポートしていくかということ,場合によっては外部の専門家にお願いする場合がある。その見極めをどのようにするか,日常的には教員が対応できるようなそこまでの知識,技能が必要。一番大切なのは,障害児を受け止めるマインドではないか。
○両親を支援すること,子ども自身の障害の認識・受容はうまく一致する段階とそうでない段階がある。学校の先生ができる部分と,場合によっては外部の専門家にお願いする部分がある。聾学校は特に今まで,全部自分達で抱えこむところがあった。あるいは全部担任が抱え込むということ。そういうところは変わらなくてはいけない。専修免許のところに内容を盛り込んでいるが,一般的な問題としては1種にも入れる必要があると思う。
○知的障害教育では,最近,小中学校で不登校だった子ども達が多く入ってくるようになった。この子ども達に対応するということは,本人の受け止めをしっかりしなければいけないと思う。都研の教育相談部と相談してカウンセラーの派遣をお願いすることが増えている。基本的に教員がカウンセリングの知識,技能があることは必要だと思う。さらに,知的障害養護学校は精神科相談として医師に対応してもらうことがかなりよくある。親のケアも含めて,相談業務にあたってもらっている。
△教員にカウンセリングの基礎的な知識が必要ではないかという点に関して,平成10年の免許法の改正で小・中・高等学校の免許状を取るときに,教育相談に関する科目の中でカウンセリングに関する基礎的な知識を含めることという改正がなされた。一応,小・中・高等学校の免許状を取る場合に,カウンセリングに関する基礎的な知識を,今の教員養成課程で学んでいる学生は身に付けることになっている。それに加えて,特殊教育に関するカウンセリングの知識,プラスアルファな知識が必要かどうかは次回以降ご議論いただきたい。

【目次】



特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議
障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校に関する作業部会(第1回)議事要旨


1.日時 平成13年12月19日(水)10:00〜13:00
2.場所 文部科学省仮設会議室 B22
3.出席者  
(協力者)河端、斎藤、竹中、西條、細村、三浦、宮崎、望月、森原の各氏
(文部科学省) 池原特別支援教育課長、鈴木視学官、古川調査官ほか関係官
4.議事内容
(4)事務局より「特別支援教育の現状と課題」の資料に沿って、障害種別を超えた盲 ・聾・養護学校に関する作業部会を設置した経緯について説明の後、委員から意見 等があった。主な意見等は以下のとおり。
○聾学校は、重複障害の子どもの在籍率が18%と低いが、他の養護学校等に在籍しているのか。
○聾の重複障害の子供が他の障害の養護学校等に通っている数についての調査はない。
○知的障害と聴覚障害の重複障害の場合、知的障害の為に認知出来ないのか、聴覚障害なのか見極めがつきにくい。
○知的障害養護学校にいる視覚障害のある子供の調査は大学の調査があるが、聴覚障害がある子供の把握については検討が必要。重度の障害のある子供についても実態を把握する必要がある
(5)森原委員より資料に基づき京都市が取り組んでいる「総合養護学校の研究開発について」、望月委員より静岡県が取り組んでいる「地域の実態に応じた取り組みについて」、事務局より「地域の実態に応じた取り組みについて」説明の後、フリートーキングが行われた。主な意見は以下のとおり。
○養護学校の義務化からまだ20年だが、その間に総合養護学校が必要だというような問題が多くあったのか。京都市の事例は、今までのシステムを大きく変えるような感じがするが、少子化が進む中、これだけの予算をかけてどれだけの教育的効果があるのか。
○今ある盲・聾・養護学校すべてを総合化するわけではない。現状のままでいけるところはそのままで、これまでで足りないところを補うために総合化を検討すると理解している。
○今までの特殊教育の内容がこわされるような誤解を保護者がもたないような説明をするよう注意してほしい。
○肢体不自由養護学校には重度の子どもが多くいるが、京都市内には肢体不自由養護学校が1校しかないため、1カ所に集まらなければならず、通学時間について保護者の要望があることと養護学校のある地域のバランスの問題が背景としてあった。
○今回の養護学校の総合化を検討することになった大きな要因は、障害の重複化によって、障害種別の学校でありながら、入ってくる子どもの障害の状態にずれが出てきている事だ。東京のように交通の便が良い所では各障害種別の学校でも対応できるが、そのような地域は非常に少ない。1000校ある盲・聾・養護学校をどう地域のニーズに合った学校にしていくかが、今求められている課題。地域の実態に合わせて、総合化するところもあれば、単独の種別でいけるところもある。京都市では、教育課程の在り方についても研究されており、大事な問題と考える。
○養護学校を総合化した時に、単一の障害の子どもがはいってきた場合、専門性を確保していく事が必要。また今後の盲・聾・養護学校の在り方として、地域のセンター的機能が必要となってくると思われるので、すべての学校に教育相談部門が必要になってくる。
○総合化する上で盲・聾・養護学校の都道府県立と市町村立のすみ分けも検討する必要がある。総合化すれば大規模化してしまうので、例えば小・中学部は市町村立とし、高等部や専攻科は都道府県立とするといった様に適切な規模についても念頭におきながら総合化を検討する必要がある。
○総合化してもそれぞれの障害に対応した指導ができるように、単一の障害についての教員の研修は必要。

【目次】



特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議
障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校に関する作業部会(第2回)議事要旨


1.日時 平成14年1月24日(木)10:00〜13:00
2.場所 文部科学省仮設会議室 A11
3. 出席者  
(協力者)緒方、河端、斎藤、西條、細村、三浦、宮崎、望月、森原、山本の各氏
(意見発表者) A県立第二教育センター中田指導研究部長
(文部科学省) 池原特別支援教育課長、安藤企画官、古川調査官ほか関係官
 
4. 議事内容
(4)中田部長より資料に基づき「A県における盲・聾・養護学校におけるセンター的機能の取り組みについて」説明の後、委員から意見、質問等があった。主な意見、質問等は以下の通り。
○支援推進部では教育相談を行う、ほぼ専属的な教員が2〜3名いる。
○ある国立大学では平成13年4月から大学院に、教育相談支援総合センターを設置し、臨床心理士の養成や、教員を対象とした教育相談を行っている。来年度からは特殊教育センターや教育委員会、盲・聾・養護学校と連携し、教育相談機能を高めることを予定している。
 
(5) 宮崎委員より資料に基づき「地域の特殊教育のセンターとしての盲・聾・養護学校について」説明の後、フリートーキングが行われた。主な意見は以下のとおり。
○センター的機能がクローズアップされてきた背景は、平成14年度から全面実施される盲・聾・養護学校の新学習指導要領に「盲・聾・養護学校は地域の教育相談のセンターとしての役割を果たす」ことが規定がされたことと、「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」において「盲・聾・養護学校は地域の特殊教育のセンターとしての機能を充実することが望ましい」という提言がされたことがある。
○盲・聾のように障害がはきっきりしている場合は教育相談もうまくいくが、知的障害の場合、養護学校への就学に反発する保護者もいる。
○盲・聾学校は児童生徒数が少ないので、今の標準法では教育相談の教員の加配があまりなく、幼稚部については国庫負担の対象となっていない。このため、出産直後からの対応についてなんらかの公的な条件整備が必要。盲・聾学校と養護学校では教職員定数が別計算で流用が出来ないのが問題。
○「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」で示された「教育、福祉、医療、労働等の関係者で構成する特別の相談支援チームのような組織」において盲・聾・養護学校はどのような役割をするのか、なにが出来るのかを検討しなければならない。
○異なる障害種の人同士が交流することは、お互いに障害のある人を支援する立場を体験することになり、相互理解に役立つと考える。

【目次】



特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議
障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校に関する作業部会(第3回)議事要旨


1.日時 平成14年2月22日(金)14:00〜17:00
2.場所 文部科学省仮設会議室A11
3.出席者
(協力者)河端,斎藤,竹中,西條,野崎,細村,三浦,宮崎,望月,森原,山本の各氏,(文部科学省)池原特別支援教育課長,鈴木視学官,古川調査官ほか関係官
4.議事内容
 事務局より資料に基づき「障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方について」説明の後,委員から意見,質問等があった。主な意見,質問等は以下の通り。
○聾学校の場合,個別の指導計画は自立活動で作成しているが,総合制の学校になった場合,教科も含めて個別の指導計画を作成することになるのか。
△今の段階では個別の指導計画は自立活動と重複障害に限っているが,今後の方向性としては,教科指導においても個別の指導計画が求められてくるのではないか。
○「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」の中でも「北欧では,比較的独立した生活が可能な聴覚障害児は,通常の学校ではなく,聴覚障害児のための学校で学ぶことを志向する場合もある。」とあるが,聾と他障害の児童生徒が一緒に学んでいる学校の例は,国際的にみて先進国に例があるのか。また,盲・聾併置校について教育方法が異なるために,盲・聾が分離した経緯があるが,新たに教育的に一緒にする意義はあるのか。
△北欧等では,聾学校は他障害と一緒になっているよりは,聾学校だけで残っている国が多い。
○アメリカでは,「最も制約の少ない環境」は地域の中で家の近くの学校に通うことだと解されているが,聾の子どもに関しては最も制約の少ない環境はむしろ聾学校だという別の解釈もある。
○聾学校は重複障害学級の設置率が低く,聾の重複障害の子どもは知的障害養護学校へ流れているケースがある。それぞれの障害種の教育課程を担保することは大事だが,知的障害を併せ有した重複障害の子どもに対する教育をどうするかについて検討する必要がある。
○聴覚障害の子どもが知的障害養護学校にどれくらい在籍しているのか。
△知的障害養護学校に在籍している聴覚障害の子どものデータは無いが,聾学校に在籍する重複障害のデータとしては,平成11年度の校長会調査では,全国の聾学校小・中学部3,369人のうち451人が重複障害で,その重複している障害は,知的障害が約60%,肢体不自由が22%,盲が4%,病弱が13%になっている。知的障害との重複障害の子どもについては,教育課程編制上の特例を適用した教育課程を行っている。
△重複障害については,例えば聾学校における知的障害との重複の教育課程と,知的障害養護学校における聾との重複の教育課程をどう考えていくかも検討しなければならない。
○知的障害養護学校では,聾学校から聴覚検査のノウハウを教えてもらったりしながら,聾学校との連携を図っているところである。
○異なる障害種の学校と連携していく形が良いのではないか。現在,聾学校にいる子どもについては,聾特有の指導方法が有効であると思うが,他の種別の学校に行っている聴覚の判定そのものが難しいような子どもについては,どこで対応していくのか考えていく必要がある。
△総合化した場合,聾の専門性のある教員と知的障害の専門性をもった教員が両方いれば,両方のノウハウを活かせるので,重複障害児への指導が行いやすい。
○学校の制度の問題と子どもたちの教育そのものは別の問題なので分けて考える必要がある。
○例えば聾の子どもが地域の総合制の学校を希望した場合,その子ども一人のために聾の専門性のある教員を配置するのか。
△専門性を担保する為には配置しなければならない。地域の実情に応じて,障害種別の枠を超えた学校を設置者が必要とするならば,設置出来るような制度を検討する必要がある。例えば聾の子どもが遠くの聾学校より,近くの総合制学校を希望する場合,マルチメディアを活用したり,聾学校から専門の教員を派遣してもらう等の聾学校とうまく連携出来るシステム作りが必要となる。


 聾学校でノウハウを教わったぐらいで,知的障害養護学校で聴覚検査をするというのはどうか。十分な設備もなく,ちょっと教わっただけぐらいで検査をしてしまうことが良いことなのか。そして検査後に聴力障害が疑われたときに,どうフォローするのであろうか。また総合制の学校のどれもに聾学校機能を持たせるとするのであれば,すべてを揃えたら1000万円はかかる機器,改築でも2000万円ほどかかるであろう防音室などのコストを支払う保証はあるのだろうか。結局,費用がかかるとの理由でプレハブの検査室に,聾学校使い古しのオージオメータだけといったことで,結局は何もできない総合制聾部門になってしまうのではないかという危惧がある。
 私は従前の学校の枠組みの中で,種別を超えた学校を設置する必要性が生まれたのであれば,そこに聾学校の分校を併設し,聾学校の教員を配置すれば良いと思う。設備や教員資源を生かすためには,必要に応じて,「聾学校出張所」のような形で分校設置を容易にできれば問題は解決すると思う。そうした特例のために,盲・聾・養護という枠を取り払う喫緊の必要性は感じていない。


(4)山本委員より「教育相談・支援総合センター」について,森原委員より資料に基づき「総合制・地域制養護学校への再編に伴う教員の専門性の確保について」説明の後,フリートーキングが行われた。主な意見は以下のとおり。
○盲・聾・養護学校の専門性で一番重要なのは教員の専門性の問題である。教員にはプラン,指導,評価のそれぞれに対して,相談機関とは違った専門性がある。障害のある子供が100人にいたら100人の個別の指導計画を立てるのではなく,どういう類型の子供達がどの程度いるのか判断して,その子どもたちに最もふさわしい指導を生み出していくのが盲・聾・養護学校の専門性だと思う。
 
○養護学校は教員の人的資源を活かして,地域にその専門的な力を還元していかないと,養護学校の存在意義を疑われる。地域から頼りにされる養護学校になるためには専門性を高めていかなければならない。A県では教員の採用について,障害に対する専門性を重視して採用したいのだが,校長の要望は音楽や美術といった科目の免許を持った人を欲しがる為,障害に対する専門性との両立が難しい。


 これはひとえに校長に素人が多いから。聾学校では良く「10年で一人前,20年でようやくわかり,30年で語ることができる」という。頻繁な人事異動で専門性の高い校長はじめ管理職が育っていない。総合免にすることで,盲・聾・養護の人事異動がより激しくなってしまったら,聾の専門家は本当にいなくなってしまう危険性がある。現状でも,聾学校長の多くは聾免を持っていない。このような現状を是正することこそ喫緊の課題ということは皆,承知のはずと思う。


○総合制の考え方は,従来の盲・聾・養護学校の枠組みがあって,必要に応じて設置者の判断によって障害種別の枠を超えた総合学校の設置も可能とし,その場合の組み合わせや教育課程を提示するというものなのか。
△盲・聾・養護学校全部を総合制にするというものではなく,設置者の必要性に応じて総合制という枠組みも出来るという方向性を示すものである。
○障害種別の枠を超えた総合学校という議論と,重複障害にどういう形で対応するのが一番良いのかという議論は別ではないか。障害種別の枠を超えた総合学校ということを考えると,地域にいる様々な障害のある子どもを総合学校で全て受け止めるという議論になる。重複障害に対して,どう対応するのかを考えるなら,養護学校の中で総合化をしていくという事で対応出来るのではないか。
△「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」では,地域の中で様々な障害のある子供を受け入れるという観点も含めて議論するという提言がされている。
○従来の盲・聾・養護学校の枠組みのままより,障害種別の枠を超えた総合学校をつくった方が子どもの指導を進めるために良いという必然性があるのか。盲なら盲,聾なら聾のプロパーとして専門性を持っている方が良いのでは。
○盲聾の併置校は財政的な理由によるものであり,必ずしも教育的に良いとはいえない。
○障害種別の枠を超えた学校の形になれば,それがノーマライゼーションという訳ではない。障害のある子どもが盲・聾・養護学校で専門性のある教員に教育を受けると同時に,障害のない人が,障害のある人とどのように接するかを指導するための専門性が必要。小・中学校の側からどれだけ盲・聾・養護学校へ交流できるかが大事である。
○設置者の判断で,現在の枠組みと同じ盲・聾・知・肢・病の障害部門ごとの学校になったとしても,今後は,どの障害部門の学校も,他の障害種と重複障害の子どもに対して教育的対応が出来るよう,専門性のある教員を配置する必要がある。
○東京のように交通網や学校等が整理されているところでは,盲・聾・知・肢・病の障害種別ごとの学校もあり得るが,過疎化が進んでいる所では他障害種の子どもは受け入れられないとは言っていられないのだから,様々な障害の子どもに対応できるシステムを作る必要がある。盲・聾・養護学校全部が総合学校になるという訳では無いが,ある盲学校があって,その近くに住んでいる知的障害の子どもがその盲学校を希望する場合,その子どもを受け入れられるシステムをつくる必要がある。一つの学校ですべての専門性を持つというのは酷だが,少なくとも,この障害種の子どもが入ってきたら,この専門家に任せようと見極められるだけの力量は持つ必要がある。設置者の判断で総合学校を設置することも可能ということではなく,総合学校のイメージをはっきりと作る必要がある。
△知的障害養護学校しか無い場所で,その学校を総合学校にした場合,別の場所にある盲学校等から専門的な教員を派遣出来るようなシステムをつくる必要がある。
○教育相談部門というのは,早期教育相談対応部門と通常の小中学校に在籍している障害のある子どもへの相談部門があり,今後充実が必要である。
○障害種別ごとに専門性を培っていくことは大切だが,障害のある子どもが他の障害がある子どもと接することも大事だと思う。教員の専門性をどのように育てていくかが課題。
○総合学校という制度で,一人一人に対応した専門性のある教員を配置できるのか不安がある。

【目次】



 参考
 「障害種別の枠を超えた盲・聾・養護学校の在り方について」京都市の試行


京都市では,障害種別の枠を超えた教育課程の在り方,学校の組織運営体制や指導体制の在り方,教職員や施設・設備などについて基礎的な研究を行っている。
ここでの再編計画を紹介したい。なお,「京都市立」という枠組みの中での検討であり,聾学校,盲学校は入っていない。私自身は,あくまでの従前の学校種別の中の「養護学校間の枠組み解消」であり,総合制とは別物と考えるべきと思う。養護学校という従前の制度の中で,様々な組み合わせは試みるべきであり,逆になぜ今まで実践が行われてこなかったのか?とさえ感じる。この京都市試行が総合制の実践例として考えられてしまったらたまらない・・・。
総合免の検討にあわせた こうした盲・聾・養護学校から「障害児学校」への改編案にも注目して行かなくてはならない。
京都市の試行
この京都市の試行では,病弱はそのまま(つまり病弱養護は対応の教科教育を実施するなど他の養護学校との整合性が少ない)になっている。肢体不自由と発達遅滞養護を統合し,高等養護学校を新設するという案になっている。
とするならば,盲・聾も,それぞれ高い専門性と独自の教育方法があり,いくら重複の障害が増えているとはいえ,上記の病弱校のように,独自の学校制を堅持するべきだと思う。
この学校制については,次の答申も参考にして欲しい。

【目次】



資料:日本教育大学協会特殊教育部門免許問題検討委員会答申(最終報告)


本資料は,日本教育大学協会特殊教育部門免許問題検討委員会がまとめたものである。免許保有率の抜本的向上をめざして出された最終報告である。免許保有率は免許状制度をいじること以外にも,教員採用システムや異動のあり方,認定講習の奨励等々,様々なアプローチがあると思う。本報告の附属資料はそうした免許保有率向上の諸策にも十分に触れており非常に貴重な報告ではあるが,実際的な提案は,総合免許状の提案しか触れいない。この資料の一部を紹介する。なおわかりやすさのために,多少の修正,加筆を行っている。


日本教育大学協会特殊教育部門免許問題検討委員会答申(最終報告)
目次
前文
1.免許状保有状況の抜本的向上施策の立案と推進
  1)内閣府関連
  2)文部科学省関連
2.障害児教育総合免許状(試案)の提案
  1)総合免許状の新設−「障害児教育基礎免許状」「障害児教育専門免許状」
  2)「自立活動免許状」の位置づけ
3.大学における障害児教育教員養成の条件整備の推進
4.今後の検討課題一特別支援教育への展にともなう教員養成
附属資料
  T.免許問題検討委員会の発足経緯と今後の課題−中間報告T
  U.免許問題検討委員会の審議経過と当面の課題−中間報告U
  V.免許問題検討委員会の活動状況−中間報告V
  W.教大協特殊教育研究部門免許問題検討委員会平成10年度中間報告
  X.免許問題検討委員会最終年度報告
編集後記
 
 
1.免許状保有状況の抜本的向上施策の立案と推進(抄)
1)内閣府関連(省略)
2)文部科学省関連
 障害児教育教員免許保有率の向上には,文部科学省および都道府県教育委員会の果たす役割が大きい。文部科学省および都道府県教育委員会は,全国および当該都道府県の障害児学校教員の免許保有の現状を把握し,免許保有率の具体的な向上のための計画を策定するとともに,すみやかな実施を行うべきである。その際,少なくとも以下の諸点が求められる。
@障害児学校枠での教員採用の推進
 盲・聾・養護学校いずれか一つの免許状取得を基本要件として,障害児学校枠での教員採用試験を全国レベルで都道府県・政令指定都市の教育委員会が実施すること。
 
A人事異動時における免許状保有状況への留意
 障害児教育教員免許状保有状況の改善目標に照らして,人事異動に際しては免許状保有状況に留意し,運用上の工夫をすべきである。また小中学校の75条学級,通級指導教室の教員の人事に際しては盲・聾・養護学校教員免許保有者を優先するといった配慮を徹底すべきである。
 
B認定講習等における免許取得奨励の強化
 採用後ないし異動後に期限を設けて免許取得する奨励策を強化すること,免許取得のための大学等への教員派遣の拡大,障害児教育免許取得に関する大学院等休業制度の特例の設置(障害児教育免許状を保有しないものへの適用)などを実施すること。
 
C現職教員研修及び特別支援教育教員養成に関する開発的連携の推進
 現職教員の障害児教育免許取得機会の拡大と特別支援教育とそれを担う教員の養成のために,教育委員会と大学がいっそう教育・研究の連携をつとめ,多様な形で単位取得や現職研修ができるようにする必要がある。そこには,現職教員の研修に関する諸規定の運用の工夫や改訂,大学教員の補強・拡充といった抜本的基盤整備も求められるところである。
 
 なお,21世紀の特殊教育の在り方に関する協力者会議報告は,平成13年から10年間で免許保有率を約90%とするものとして試算例を示している。しかし,免許状保有率においては著しい都道府県間格差があり,高位の県においては,その達成は容易になされるかもしれないが,保有率の低位の広島・大阪・京都・兵庫などの府県においてはそのような試算が通用するとは考えにくい。また,これまでにも多くの教師が認定講習によって免許を取得してきたが,それが免許保有率を高めるものとなってこなかった事実をみても,認定講習による免許保有率の向上には限界があるといわなければならない。認定講習では,大人数の講習では十分に知識を得ることが出来ないこと,さらに限定された講習のみによって専門性を培うには限界があることも事実である。総合的な障害児教育教員養成の充実とその中での大学の役割の強化が必要であろう。
 
2.障害児教育総合免許状(試案)の提案
 すでに盲・聾・養護学校教員の免許状の一本化については,1980年「日本特殊教育学会特殊教育教員養成問題研究委員会報告」以来,20年もの間繰り返し提起されてきたものである。近年では,21世紀の特殊教育に関する調査協力者会議において,「総合免許状」の創設の検討があげられた。この報告では,盲・聾・養護学校の免許状と総合免許状を並立させるとも受け止められるが,将来的には総合免許状に統合していく方向で,現行の学校種別を統合させる「障害児学校免許状」として検討するか,またより広く「障害児教育総合免許状」として検討するかなど,検討課題である。しかし,これまで,「検討する」ということで具体的な提案がなされていない状況を克服するために,本委員会では,総合免許状として,以下の学部レベルを念頭においた「障害児教育基礎免許状」と大学院レベルを念頭においた「障害児教育専門免許状」を提示し,その要件を試案として提案するものである。
 
1)総合免許状の新設
@障害児教育基礎免許状=学部レベル
 本免許状は障害種別を越えたノンカテゴリカルなものとし,障害児の「学校教育」教員として求められる「子ども理解,子どもの生活のトータルな理解」にかかる基礎的力量,並びに日々の実践の中核となる「授業づくり,学校・学級運営に必要な教育学的素養」の形成をめざすものとする。教育系大学の学部段階での養成を想定するものである。本免許状取得要件としては 全体で30単位 を次のように設置する。
 
【「障害児教育」にかかるノンカテゴリカルな共通科目】
 次の9科目(各2単位)から 12単位(6科目)を選択必修とする。
 ・概論,歴史,制度,教育課程,指導法,心理,就学指導,病理保健,福祉
 
【実践的指導力と基礎的な研究力量の向上にかかる演習・実習等】
 次のものを10単位必修とする。
 ・ゼミ(2単位),教育実習(4単位),特別研究(4単位)
 
【「得意分野づくり」への対応と専門免許へ向けた基盤づくりにかかる選択科目】
 次の障害種別7領域から 2領域8単位(4科目)を選択必修 とする。
 ・視覚障害(特論/2単位,指導法/2単位)
 ・聴覚障害(特論/2単位,指導法/2単位)
 ・言語障害(特論/2単位,指導法/2単位)   この中から2領域を選び,
 ・知的障害(特論/2単位,指導法/2単位)   ぞれぞれの特論と指導法を
 ・運動障害(特論/2単位,指導法/2単位)   1つずつを取ればよい。
 ・学習障害(特論/2単位,指導法/2単位)
 ・ 病 弱 (特論/2単位,指導法/2単位)
 
A障害児教育専門免許状=大学院修士または専攻科レベル
 本免許状は障害種別に通低する専門的素養をベースにしながら,各障害種別の特性に応じた高度な専門的知識・技能の修得をめざし,教育系大学大学院・特殊教育特別専攻科における養成を想定するものである。現行の専修免許状取得要件(実習を除き16単位)をベースに各大学の特色を生かしたカリキュラムを設定する。障害種別の領域としては次の8領域16単位 をおくものとする。
 
 ・視覚障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・聴覚障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・言語障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・知的障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・運動障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・学習障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・ 病 弱 (制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 ・情緒障害(制度・本質/4単位,心理・病理/6単位,指導法/6単位)
 
注1:重複障害については,障害種別を組み合わせるか,それとは別に障害の重い児童・生徒の教育の独自性を考慮して独自の領域を設定するかは検討課題である。
注2:情緒障害には不登校を含む。なお,聴覚障害領域を主とする専門免許状では「言語聴覚士」との整合性問題,学習障害領域を主とする専門免許状では大学側のスタッフ問題や「障害児教育免許」としての妥当性,情緒障害領域を主とする専門免許状では「臨床心理士」をはじめとする種々の心理系資格との整合性問題がある。本専門免許状の取得者が実際上どのような職務領域を担うのかは,上述した「学校免許か資質免許か」という問題ともあわせて,継続的に検討する必要がある。

【目次】



この試案が現実化された時のことを考えてみよう。

  現行制度
聾免一種
障害児基礎免許試案
総合共通 分野選択
第一欄:教育の基礎理論に関する科目 12  
第二欄:心理、生理及び病理に関する科目  
第三欄:教育課程及び指導法に関する科目
第四欄:教育実習
一〜三欄の各欄向けの講義から選択  
卒論 (現行制度では免許必修ではないが卒業要件) (4) ゼミ2+特別研究4
合計必修単位数 23+(4) 30

 現行一種との単純比較はできないが,試案には卒業研究が特別研究との名前で4単位組み入れられていることを考えると,現行一種+3単位=総合免基礎となる。
 
 さらに、試案に従ってある学生のことを考えてみよう。
 
 想定例)学部生,専攻は聴言を考えているという。ノンカテゴリー12単位,得意分野「聴覚」4単位,「言語」4単位。そして「障害児教育基礎免許状」を取得し卒業したいという。
 
【「障害児教育」にかかるノンカテゴリカルな共通科目】
 次の9科目(各2単位)から 12単位(6科目)を選択必修とする。
 ・概論,歴史,制度,教育課程,指導法,心理,就学指導,病理保健,福祉
 例えば,上記の科目として「障害児教育概論」という講義ができたとする。
 1科目2単位は15コマで構成されるので,下記の構想を考えてみる。
  開講時期 1年前期「障害児教育概論」
            視覚障害児教育の概要 90分×2講義
            聴覚障害児教育の概要 90分×2講義
                ・
                ・
        以下同様に言語障害,知的障害,運動障害,学習障害
           病弱,情緒障害児教育の概要の講義があるとする。
 
  開講時期 1年後期「障害児教育の制度」
            視覚障害児教育の制度 90分×2講義
            聴覚障害児教育の制度 90分×2講義
                ・
                ・
        以下同様に言語障害,知的障害,運動障害,学習障害
           病弱,情緒障害児教育の制度の講義があるとする。
 
 すると,聴覚障害児に関して6科目。例えば,概論,制度,教育課程,指導法,心理,病理保健で計12コマを履修することになる。これは従来の例えば,「徴用児教育概論」といった授業1科目分よりやや少ない内容ということになる。
 次に,専門免許へ向けた基盤づくりにかかる選択科目として,以下の4単位を取得したとしよう。
 ・視覚障害(特論/2単位,指導法/2単位)
 ・聴覚障害(特論/2単位,指導法/2単位)
 
 さらに,実践的指導力と基礎的な研究力量の向上にかかる演習・実習等として聴覚障害関係の教官につき,ゼミ,引き続き,卒業研究論文を書く。さらに盲学校1週間,養護学校1週間,聾学校2週間の教育実習に行ったとする。
 ・ゼミ(2単位),教育実習(4単位),特別研究(4単位)
 
 
 さて,以上で学生は免許要件を満たした。ここで,取得した単位をふり返ってみよう。ノンカテゴリカルな共通科目の部分は先ほどの考え方で各障害別に割り振ってみた。
   視覚障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   聴覚障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   言語障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   知的障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   運動障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   学習障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
   病 弱 児教育関連講義 90分講義×12コマ
   情緒障害児教育関連講義 90分講義×12コマ
 
   聴覚障害児教育特論   90分講義×15コマ
   聴覚障害児教育指導法  90分講義×15コマ
   言語障害児教育特論   90分講義×15コマ
   言語障害児教育指導法  90分講義×15コマ
 
   聴覚障害児教育ゼミ,卒論
   盲学校1週間,養護学校1週間,聾学校2週間の教育実習
 
 さて,この学生,障害児教育基礎免許状を取得し,教員採用試験を受験,合格した。聾学校教員を志望したが,赴任先が養護学校になった。さて,養護学校で教員としてやっていけるだけの技能は彼に身に付くであろうか? 聾学校教員としてやっていける力量は身に付くのであろうか? 赴任先が総合養護学校であったとしてもいい。そうだとしても,広く浅い専門性のために,どの障害であろうとも対応できないのではないだろうか。「二兎を追う者は一兔をも得ず」と言うが,「八領域追う者は一領域をも得ず」ということになりかねない。
 
 考えて欲しい! この学生が仮に総合養護学校の中で知的障害児を担任することとなったとき,知的障害関連の授業は,たった1科目分,12コマ,実習1週間のみだ。
 
 聴覚障害児を担任するとしても,たった3科目分(言語を含めば5科目分)+実習2週間こんな程度で現場に放り込まれては,一番,子どもがかわいそうだ。次に当の本人。そして,何も教育を受けてこなかった学生を,現場に入ってから育てて行かなくてはならない現場の教師・・・。なんでこんな「素人+α程度」の内容で免許を取ることができる制度が許されるのであろうか。内容の薄い免許をばらまいて,それでもって免許保有率が向上したということに何か価値があるのだろうか。 

【目次】



現行制度では不十分なのか?
 
 ここでもう一度,現行制度を振り返ってみたい。
 現在,A大学の障害児教育教員養成課程には,聴覚言語障害コースと発達障害コースがあり,希望する学生は相互乗り入れし,聾学校,養護学校教諭一種免の双方を取得して,学部を卒業することができる。約30人の卒業生の内,10人ほどが企業就職,10人ほどが福祉施設,通園施設等に就職し,残り10人が教員を目指す。この教員を目指す10人はほとんどすべてが聾・養護複数免を取得し
て卒業する。聴言コースで養護副免の卒業生の履修講義をみてみよう。
  
  聾一種免用必修 養護一種免必修
第一欄
 
障害児教育概論
聴覚言語障害児の理解と教育
障害児教育概論
知的障害児の理解と教育
第二欄

 
聴覚言語障害児の心理
聴覚の生理・病理
聴覚の発達とその障害
知的障害児の心理
脳の生理・病理
運動障害の指導
第三欄



 
聴覚障害指導法
言語障害指導法
言語指導法
聴覚障害検査法
聴覚障害児の授業
知的障害児指導法
障害児の指導実践論
発達障害児の身体と指導
養護学校の授業
代替コミュニケーション論
第四欄
 
聾学校教育実習事前事後指導
聾学校教育実習3週間
養護学校教育実習事前事後指導
養護学校教育実習2週間
卒業要件 卒業研究  
                                   
 総合免では専門免許へ向けた基盤づくりにかかる選択科目として聴覚言語を選択したとしても,[専門5科目+教育実習2週間]だ。現行制度は[専門9科目+教育実習3週間]だ。仮に養護学校に赴任したとした場合,総合免では[1科目+教育実習1週間]だが,複数免を取得すれば[専門9科目+教育実習2週間]となり,そこそこの講義を経て現場に立つことが保証される。
 
 もちろん,例で挙げた学生の場合,必修科目以外に,選択科目として,「聴覚障害児の教育」「言語障害児の教育」「障害児の指導と学級経営」「障害児医学総論」「音声の生理・病理」「聴覚障害児心理概論」「言語障害児心理概論」「言語の発達とその障害」「コミュニケーション発達論」「聴覚障害児臨床実習」「言語障害児臨床実習」「手話コミュニケーション1」「手話コミュニケーション2」「言語障害検査法」「聴覚学習の実際」「言語障害児の授業」「聴覚障害児指導法演習」「言語障害児指導法演習」「障害児教育工学」「障害児教育情報工学」「聴覚言語障害児教育研究法」の単位を取っている。
 
 さらに,学部の上には専攻科がある。専攻科には重複障害専攻があり,聾・養護の複数免の上に,1年間の修学で重複障害に重点を置いた講義を受け,養護専修免を取得して,修了する道も選択肢としてある。
 もし,盲免を取得したければ,教員の採用後に,近県の盲学校教諭の認定講習や特総研の研修に出て,取得する道もある。

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こうして考えていくと,問題は・・・・・
 
 総合免の論議の際に,学部段階で複数免を取得して卒業させることができれば,総合免より広く深く学ぶことができる。総合免の構想の中の「ノンカテゴリカルな共通科目」の考えも,第一欄を工夫して講義を構成すれば,現状制度でも,その理想は実現できる。
 この複数免卒業,あるいは採用後に認定講習で複数免,さらに専攻科で重複障害専攻といった現状制度を活用すれば,総合免の導入理由はなくなると言っても過言ではない。現状の制度を利用,活用せず,反対を押し切ってまで,導入を計るのはあまりに強引としか言いようがない。
 
 仮に総合免にした際に,その講義をする教員養成の教官をどうするのかといった点もビジョンが見えない。現状の教官で総合免を導入した場合,盲や学習障害の分野の教官が足りなくなるのではないか。仮に非常勤で補うことができたとしても,例えばノンカテゴリカルな指導法などというのは一人の教官が講義をできるはずもなく,旧来の養護学校教員養成課程が発展した課程などは,教育学部の統合論の中で存在自体が危うくなり,一県一教員養成大学あるいは一県一附属養護学校ということも危機にさらされるのではないだろうか?
 
 
 さて,次ページ(新聞記事のためホームページには掲載できません),鳥取県で総合化が論議されている。養護学校の統合は当然として,中部地区の倉吉養護に視覚,聴覚障害分野を付けると言うことに無理がありそうな気がする。それならば,西部地区のように聾学校分校を倉吉養護に併設すれば良いと思う。確かに地域的な問題はあろうが,聾学校は,ある程度の規模が必要だと思う。学校には「集団」が必要なのだ。幼稚部〜小の分校化はやむを得ないが,中学校以降は本校の寄宿舎を利用するなど,同じ障害「ろう」の者同士が集まり,そこで自分の障害を見据える時期が必要だと思う。そうした意味でも総合養護学校ではなく,幼〜小程度の分校化でしのげないかと思うのである。

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