1998年4月13日発行(第2・4月曜日発行)
聴能情報誌 みみだより 第3巻 第343号 通巻428号
編集・発行人:みみだより会、立入 哉 〒790−0833 愛媛県松山市祝谷5丁目2−25 FAX:089-946-5211
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【目次】第343号
- 字幕付き映画「ドラえもん のび太の南海大冒険」
- 衛星劇場:聴覚障害者向け字幕入り放送
- 字幕付き映画「地球が動いた日」上映会日程
- 字幕付き映画「風の歌が聴きたい」自主上映会日程
- 日本聴覚医学会第21回 補聴研究会のお知らせ
- 研究会誌紹介 「聴覚障害教育工学」VOL.21,N0.1,1998
- インターネット情報
- ニュース:電子情報通信学会に「手話工学研究会」ができる
- 記事訂正
- 人事ニュース
- ご紹介:失語症リハビリテーション支援システム「花鼓」
- 新刊図書「歴史の中のろうあ者」
- 新刊図書「小説 どんぐりの家」
- 再刊図書「母と子の聞こえの教室」
- 新刊図書「難聴児の聴覚活用の発達に関する研究」
- 新刊図書「聴覚障害教育コミュニケ−ション論争史」
- 新刊図書「まいどー、手話で一席」
- 福祉関係諸手当の手当額改定について
- ニュース:学校からの贈り物 〜字幕付き卒業式〜
- 校内誌拝見:聴覚活用の力をのばすために
- 新製品紹介:松下電工 光るチャイム EC170
- 補聴器新製品:スターキー A675 シークエルAV
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字幕付き映画「ドラえもん のび太の南海大冒険」 「ドラえもん のび太の南海大冒険」に字幕が付く!
アニメ映画「ドラえもん のび太の南海大冒険」字幕プリント上映が決定しました。東宝では全国の東宝各支社に1本の割りで字幕プリントを作成したという話です。まもなく全国で上映が開始されるはずです。他の地区についての情報は東宝本社に問い合わせてください。
照会先=東宝(株)映画興行部 TEL:03−3591−1231。
日時 4月11日(土)〜4月17日(金)の1週間
場所 大阪梅田・ナビオ阪急8F「梅田劇場」(TEL:06ー316ー1314)東宝関西支社によると、「現時点では字幕作業進行中。他の上映館については調整中です。また4月18日以降も現在詰めていますので、いましばらくお待ちください。」とのことです。
照会先=東宝関西支社映画営業部(TEL:06ー361ー0254)。
情報提供=大阪で字幕付き邦画を上映する会事務局 野下様方 FAX:06ー465ー7107
衛星劇場聴覚障害者向け字幕入り放送
4月 ご存知! ふんどし頭巾 ・・・ 18日(土)9時から※ 釣りバカ日誌4 ・・・・・・ 12日(日)・25日(土)ともに9時から 5月 学校 ・・・・・・・・・・・ 10日(日)9時から 釣りバカ日誌8 ・・・・・・ 17日(日)9時から 男はつらいよ「寅次郎と殿様」・ 3日(日)・31日(土)ともに9時から 6月は、『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』『学校U』『麦秋』を放送予定
※4月は『ご存知! ふんどし頭巾』に手話解説・手話解説ゲストが付く
(株)衛生劇場が提供する「シネマジャパネスク」は、通信衛星(CS)を使って放送している日本映画専門の放送局です。視聴するためには、ケーブル局を通じた配信を受けるか、パーフェクトTVの契約をして番組選択をする方法の2通りがあります。お住みの地域がケーブルTVのサービスエリアであればケーブルTV局に御相談を、サービスエリア以外であれば下記のパーフェクトTVに御相談下さい。 5月放送「学校」 字幕入り放送へのご意見/リクエスト等は 衛星劇場編成部まで FAX:03-5250-2324
受信に関する照会は、パーフェクトTV FAX:03-5802-8438か、上記衛星劇場まで。
詳しくは、〒104 中央区築地4-1-1 東劇ビル5F 衛星劇場まで。
字幕付き映画紹介
「地球が動いた日」字幕付きフィルム上映日程
5月5日 有楽町朝日ホール 12:45からの1回上映
(千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11F)
日映協フィルムフェスティバル'98の一環で上映されます。映画の内容は「みみだより」340号を参照して下さい。
料金等照会先:「地球が動いた日」製作委員会 代表(有)ゴーゴービジュアル企画
〒207-0013 東京都東大和市向原6-1245-39-202 TEL&FAX:0425-67-3925
字幕付き映画「風の歌が聴きたい」自主上映会日程
映画「風の歌が聴きたい」は実在する聴覚障害者の夫婦、高島夫妻をモデルに描いた作品です。高島夫妻のことは、TBSの番組を通して、あるいは本を通してご存じの方も多いかと思います。各地の聾学校や聴覚障害関連行事に講師として呼ばれていますから、お話を直接、聞かれた方もいるかと思います。映画は、7月より公開となります。
協賛上映会日程
日程 会場 主催・協力 詳細告知予定 5月 5日(祝) 大阪・万博ホール 産経新聞社 産経グループメディア 5月16日(土) 富山 北陸電力 KNB北日本放送テレビで告知予定 5月22日(金) 島根 中国電力 フジTV系列テレビで告知予定 5月23日(土) 広島 中国電力 フジTV系列テレビで告知予定 5月31日(日) 山口 中国電力 フジTV系列テレビで告知予定 6月20日(土) 岡山 中国電力 フジTV系列テレビで告知予定 6月29日(月) 東京・日本橋三越 日本橋三越 三越会報誌5月号で告知予定
上映に関しての詳細は下記の上映実行委員会にご照会願います。
「風の歌が聴きたい」上映実行委員会 TEL:03-5412-7777 FAX:03-5411-7778
日本聴覚医学会
第21回 補聴研究会のお知らせ
研究会開催
補聴研究会を下記のとおり開催いたします。多数のご出席をお待ちいたします。
期 日: 1998年6月20日(土)午後1時より 会 場: 戸山サンライズ(全国身体障害者総合福祉センター)
東京都新宿区戸山1−21−1 TEL:03−3204−3611テーマ: 「幼小児の補聴に関する問題」 事務局: 〒359−8555 埼玉県所沢市並木4−1
国立身体障害者リハビリテーションセンター病院
耳鼻咽喉科内補聴研究会事務局 田内 光
(TEL:0429−95−3100 FAX:0429−96−3074)
研究会誌紹介「聴覚障害教育工学」VOL.21,N0.1,1998
大沼直紀/補聴援助用電波制定の意義 1 衛藤泰博/小学校普通教室におけるFM補聴器活用についての調査研究 2-10 加藤大典他/本校の赤外線補聴システムとループシステムの比較 11-18 志水康雄他/相互通話式集団補聴器 19-21 立入 哉/学校の補聴援助システム 22-27 古橋文夫/ホナックのFM補聴器システムについて 28-33 舘野誠/耳かけ形FMシステム FreeEar 34-39 伊丹永一郎/耳かけ形FM補聴器 ExtendEar 40-47 「聴覚障害教育工学」入手申込先
〒305-0005 つくば市天久保4-3-15 筑波技術短期大学教育方法開発センター内
日本聴覚障害・教育工学研究会(FAX:0298-58-9411)
インターネット情報
理研産業がホームページ開設
http://www.melcoinc.co.jp/eleshow/riken/index.htmlアメリカの補聴器販売店
http://www.excelhearing.com/bte2.htmアメリカの補聴器用空気電池通信販売店(要:クレジットカード)
http://www.aclhearingcenters.com/aclwww/order/batteriesform.html
ニュース
電子情報通信学会に「手話工学研究会」ができる
SiLE(Sign Linguistic Engineering)と申します。
私たちは、サインデックス(Signdex)v.1をこのほど完成させました。手話には文字という符号がありません。このことが自然言語としての手話の研究に大きな障碍となっていました。私たち手話工学研究会は、言語学、情報工学、教育工学、福祉工学などの分野の研究者が集まり、手話の解明やその応用の研究を推進するのが目的です。参加者の研究にはサインデックスの他にも、手話記述法、手話一音声通訳システム、辞書検索法、手話アニメーション、手話伝送、手話学習システムなどの研究等各方面に亘っています。
手話には音声言語にはない特色があり、これらを情報工学などの手法で解明して行くことは興味深い研究テーマです。各方面の研究者の方々がもっともっと手話に関心を持って、本研究会に参加していただきたいと思っています。
参加希望・お問い合わせは:sile-jimu@icsd4.tj.chiba-u.ac.jp
http://Bach.icsd4.tj.chiba-u.ac.jp/SILE.html
記事訂正
341号8ページ:右段 上から16行目
「装用者が・・・クロス方式は役立ちます。」の段落を以下と差し替えて下さい。
御指摘下さった服部浩先生に心よりお礼申し上げます。
訂正後装用者が述べる利点のもっとも大きいものは、聴力が悪い方の耳側で話されていることが、良く聞こえるようになることです。この理由は、頭部陰影効果がなくなるからだと思われます。この恩恵は比較的静かな環境では当てはまりますが、喫茶店や集会などの背景雑音が大きい所では、この効果が小さく、CROSは役に立たないと思われます。このような状況では、CROSが正常な聴覚に大きく優ることはないかもしれません。しかし、雑音源が良い方の耳の側にあり、話が反対側から聞こえてくるような場合であり、S/N比が負、つまり雑音の強さが話の強さよりも大きい場合であれば、CROSは役に立ちます。
人事ニュース 筑波技術短期大学聴覚部長に大沼直紀教授がご就任。
筑波大学附属聾学校校長に斎藤佐和教授がご就任。
横浜市立聾学校に聴覚障害を持つ副校長が誕生。
ご紹介
失語症リハビリテーション支援システム 花 鼓
「花鼓」は、(株)アニモが開発した失語症リハビリテーション支援システムである。このシステムは、パソコンとそれに差し込む周波数調整器、振動子、専用入力キーボードなどで構成されている。
失語症リハビリテーション支援システムという名称にはなっているが、内容は、顎の開閉・舌の運動・頬の運動から始まり、単音の発音練習、音の表現の練習、話し言葉の練習など、聴覚障害児にも使用できる内容が含まれている。
低音部を振動子で伝えたり、特定の帯域のみを抽出して聞かせる機能や、単音の発音より単語や句のプロソディック情報を練習する機能など、聴覚障害児に、むしろ適切な機能も盛り込まれている。パソコンを除き、定価 248,000円。
以下は、聴覚障害児の発音・発語指導をご担当されておられる先生が、このシステムを使用した際の印象記である。
潟Aニモの『花鼓』のデモの感想
パソコン面面で、おもしろいと思ったのはワニのあくぴ、フグの膨らんだ体、手の指をパット広げるなどの動きをイメージして構音運動をやってみる、というアイデアだ。これが良いかどうかはともかく、子どもがやってみようという気になるのではなかろうか。発音練習は、この「やってみよう」という気持ちに支えられていることが重要である。本装置が失語症リハビリ支援のためのものだから、所詮、聴覚障害児には使えないと頭から決め込まずに、新しい技術をいかに活用していくかという教師の心意気があれば、改良も必要であるが使えそうなシステムである。話しことばのリズムとイントネーションなどのプロソディにかかわる面の練習画面と振動子は言調聴覚論を想起させ、興味深い。欲を言えば、聴覚障害児が自学自習するためには、「発話のどの要素がどうなればいいのか」をシステムが判断し、処方するところまでの機能が欲しい。(Y.I.)
なお、(株)アニモは、本システムの販売の他にも、聴覚障害者向けに手話通訳者同行の旅行の紹介や、アニモネットサークルの提供なども行っている。
照会先=(株)アニモ 〒231-0015 横浜市中区尾上町2-27 朝日生命横浜関内ビル
TEL:045-663-8640 FAX:045-663-8627 e-mail:anm00080@niftyserve.or.jp
新刊図書
歴史の中のろうあ者
これまで日本で発行されてきた聾唖者に関する歴史書は、そのほとんどが聴覚障害教育に関係したものであった。ここでは聾唖学校の歴史が始まる以前の聾唖者については、放任・遺棄状態に置かれていたと触れられる程度で、聾唖者の社会生活がいかようなものであったかを記述したものはほとんどなかった。
本書は、様々な歴史的資料から聾唖者に関する出来事、人物、文学などを取り上げ、聾唖者の歴史書として完成された画期的書である。歴史書といっても読みやすく書かれているので、高等部以降であれば教材としても利用できる。
伊藤政雄著、近代出版刊、2,300円。
新刊図書
小説 どんぐりの家 映画になったマンガ「どんぐりの家」の小説版。この映画の内容をあたかも台本のように忠実に小説化している。マンガを読むのは疲れるという世代の他、全文の漢字にルビが振ってあるため、小学生高学年以降のマンガ世代の子どもが小説に触れるという読み方もできるかも知れない。
汐文社刊、1,400円。
山本おさむ 原案、田中舘哲彦 文
再刊図書
母と子の聞こえの教室 アメリカのジョン・トレーシークリニック編のいわば「音遊び事例集」。35の課題をあげ、目的・準備物・遊び方・応用などが紹介されている。私もかって聾学校に就職した時に参考にした記憶がある。書店に再三の照会があったそうで、再刊となったそうだ。
中野善達訳、福村出版刊、2,000円。
新刊図書
難聴児の聴覚活用の発達に関する研究
本書は濱田豊彦先生の博士論文である。難聴児の聴覚活用に関して
縦断的研究を行った氏の学会等でのご発表を実にうまくまとめあげている。
補聴器の装用効果については、装用閾値(氏はAHTと呼んでいる)を
指標とし、聴覚障害児の発話の明瞭性や音素獲得などとの関連を通して
総合的に考察している。章構成は以下の通り。
第1章 聴覚障害児の聴力と聴取弁別能力との関係
第2章 補聴器を介しての閾値(AHT)の改善に伴う聴取弁別能力の
発達的変化
第3章 補聴器を介しての閾値(AHT)の横断的変化
第4章 装用児自身によるボリューム調整の試み
第5章 聴覚障害児の聴力と発話の明瞭性との関係
第6章 単音節発話明瞭度と「単語」「文章音読」の明瞭性との関係
第7章 聴覚障害児の発声の揺らぎについて
第8章 聴覚障害児の発話音素の獲得について
全体的考察濱田豊彦著、風間書房刊、7,500円。
なお、風間書房のお取り計らいで、著者割引販売ができるので、入手ご希望の方は下記にてお申し込み可能。定価 7,500円×0.8+税300円+送料340円で合計 6,640円。
注文締切=5月30日:FAX送信先=089−946−5211。
「難聴児の聴覚活用の発達に関する研究」注文票
「難聴児の聴覚活用の発達に関する研究」を_____冊、注文します。
お名前:___________________FAX:_______________
発送先:(〒_________)__________________________
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新刊図書
聴覚障害教育コミュニケ−ション論争史
主にアメリカにおけるコミュニケ−ション論争を主に、国際的視点、日本国内の変遷などを紹介している。現在、多くのコミュニケ−ションモードが利用されているが、この現況に至るまでには長い歴史と多くの論争が積重されてきたことがわかる。第5章5節:「聾学校の社会的使命」には、現況の聾学校に良き提言を行っている。コミュニケ−ションモードに関する集大成として参考にしていただきたい。
都築繁幸著、お茶の水書房刊、7,622円。
新刊図書
まいどー、手話で一席 大阪府立堺ろう学校出身の聴覚障害を持つ落語家。
生い立ちや落語家として「真打ち」昇格までに至る様々なできごとの他、手話ならではの小咄をも含み笑いながら読める一冊。ろう教育についての思い出話や、手話通訳のこと、その他諸々の小咄が自身、聴覚障害をお持ちでないとわからない展開で語られている。聴覚障害をうまく利用しているといったような感じさえ受けた。
福団治亭一福著、宙出版、1,200円。
福祉関係諸手当の手当額改定について 1)特別児童扶養手当
1級(月額)50,350円 → 51,300円
2級(月額)33,530円 → 34,170円
2)障害児福祉手当
障害児福祉手当(月額)14,270円 → 14,540円
ニュース
学校からの贈り物 〜字幕付き卒業式〜
3月と言えば、さまざまな“卒業”シーズン。そこで卒業式にまつわるチョットいい話。3月10日、神奈川区の六角橋中学校(西村哲雄校長先生)の卒業式。難聴の永島陽子さんは、この学校の3年生。思い起こせば、初めて彼女がラポールの「字幕付き映画会」に来た頃は、まだ小学生だった。その後、後片づけまで手伝ってくれる小さな常連さんに・・・。そんな彼女の卒業式での出来事だ。
体育館の舞台脇に大型スクリーンが設置された。そこには、司会の言葉、挨拶、卒業証書授与の時の生徒の名前など、パソコンによる字幕が次々と映し出される。・・・この字幕は、先生、そして彼女と同じ3年生5名が制作したものだ。
学校は陽子さんへの卒業プレゼントとして、今回の“字幕付き卒業式”をおこなうことを決めた。それから事前準備から式の当日まで、担任の中村幸恵先生と生徒たちが一丸となって作業を進めてくれた。在校生席に座る1年生の小糸優介君。彼も難聴をもつ。彼にとっても必要な字幕だった。そして・・・。「卒業生退場」という最後の字幕が映し出され、式は無事に終わった。
こうして陽子さんは、中学校を巣立っていった。卒業式に出席した多くの人たちに、聴覚障害への理解を広めながら。陽子さん、卒集おめでとう!
「横浜ウェーブ」54号より許可を得て転載
映像サンプルは、中村幸江先生より頂戴した。
中村幸江先生の連絡先=nksachi@netpro.ne.jp。情報は、http://yy.netpro.ne.jp に。
字幕は、パソコンソフト Power Point で作った画像を、パソコンと接続した液晶プロジェクタで投影するという方法をとった。
聴覚活用の力をのばすために
足立ろう学校 聴言部 木島照夫
校内誌拝見
東京都立足ろう学校 聴言通信 第22号(1998.3.23発行)より許可を得て転載
1.本校児童の補聴器装用の現状と手話使用
図1:装用開始年齢の比較
図1は、本年度本校幼児・児童54名と立入氏(愛媛大)が1995年に調査した全国のろう学校児童の補聴器装用開始年齢の比較です。これを見ると、本校児童の補聴器装用開始が通常よりかなり遅い傾向にあることがわかります。もちろん様々な事情があってのことですが、例えば、3歳以降装用の児童は、全国平均では14%であるのに対し、本校の場合はその4倍の56%になっています。補聴器装用が遅いということは、言い換えれば教育開始が遅いということでもあり、これは聴覚活用面にとどまらず、日本語習得という面からも大きなハンディです。本校の子どもたちは、こうした@補聴器装用や教育開始の遅れた子どもだけでなく、A両親就労などによって付添や家庭指導の困難な子ども、B重複障害を有する子ども、C聴力が厳しい子ども、D両親ろうの子どもなど、「聴覚口語法」による指導では成果をあげにくい子どもが全校の88%を占めています。こうした実態から、本校では子どもとのコミュニケーションが最も成立しやすい手話を発達早期から取り入れることで教育効果を高めようとしてきたわけです。もちろん、@からDに該当しない子には手話が不要ということではなく、子ども同士の会話を成立させ、ろうである自己を受容し、ろう者として生きる自信や自覚を育てる上で手話はどの子にも必要かつ大切なものであることは付け加えておく必要があるでしょう。
2.手話は聴覚活用を阻害するか? ただ、手話を使うにあたって、聴覚活用という点で不安がなかったわけではありません。例えば1991年の全校講演会に招いた田中美郷氏(帝京大)は、@「脳の可塑性は3歳まで。それまでに耳が使えるようにしないとその後の日本語習得が困難になる」、A「動物実験の結果から、見る方に神経を集中させると聴覚の発達がおろそかになる」、B「子どもの症例から、B校は指文字を使っているので聴覚活用が劣る」と述べておられました。しかしこれでは、厳しい条件を抱えている本校の子どもは「聴覚活用をあきらめなさい」と言われているようなものです。どうすればよいのか、手話と聴覚活用は両立しないのか、校内では議論が続きました。
ところが、2年後(1993年)に講演会に招いた大沼直紀氏(筑波技短大)は少し違っていました。大沼氏は「発達早期での意図的な聴覚重視は必要だが、手話と聴覚は指文字やキューより併用できるのではないか。幼稚部がやろうとしている『聴覚手話法』はその点で興味深い。」と言われたのです。私達は考えました。もし、田中氏の言っておられることが本当なら、発達早期に日本手話を習得する両親ろうの子どもで手話もできれば聴覚活用も日本語の力もよく伸びている子どもの存在を説明できません。両親ろうだけでなく、聴覚活用も手話もこなす子どもは他にも何人もいます。私達は、次第に手話と聴覚活用は両立できるという考え方をとるようになりました。
ところで、最近の失語症の研究から、@聴覚的理解を担当している脳の左半球側頭葉言語領野は、手話使用者においては手話の視空間的理解を担当していること、A発話行為を担当している前頭葉言語領野は、手話使用者においては手話表現を担当していることが示唆されています。つまり、手話も聴覚も大脳では同じ領域が担当しているというわけです。もしこれが正しいとすれば、両親ろうの子どもで手話も聴覚活用もできるという事実が大脳生理学的にも説明できることになるかもしれません。
さて、私達が発達早期から手話を導入し始めてからすでに5年の歳月が流れました。本校での実践の結果はどうだったのか、そろそろ検証しなければなりません。そこで、とりあえず今回は大沼氏らが開発した「数唱聞き分け検査(JANT)」を用いて行なってきた最近4年間の子どもの聴覚活用の実態について報告したいと思います。
3.JANT(数唱聞き分け検査)とは? この検査は、聴覚活用のレベルを比較的簡単に測定できる検査で、まずトーキングカードに録音された「いち」「いち、に」「いち、に、さん」…「いち、に、・・・ろく」までの6枚のカードをランダムに子どもに聞かせ、いくつの音が聞こえたかを反応指示用絵カードを使って子どもに答えさせます(音数え検査)。 これができればレベル1、音のon−offもわからない場合はレベル0と判定します。次に、「いち」「に」・・・「ろく」と録音された別の6枚のカードからランダムに取り出し、前の「音数え検査」のカードに紛れ込ませて聞かせます。「いち」以外の数唱であることがわかり、どれかの数字を指そうとするが正答はない場合をレベル2、数唱音が一つ正解すればレベル3、二つでレベル4、三つでレベル5、四つ以上の正解でレベル6と判定します。レベル4以上であれば細かな聞き分けができる段階に達しています。図2は、児童のJANT得点と聴力レベルとの関係を図示したものです。●は全国ろう学校の聴障児(1986)、○は本校小学部児童(1997)を示しています。この図からわかることは、まず本校の児童は全国の児童に比べて聴能レベルでそう劣ってはいないということです。「装用開始時期が遅い」ということは、必ずしも大きなハンディにはなっていないようなのです。また、図3は小学部2〜6年生27名のこの3年以内のJANT得点の伸びを表したものですが、この図中すでに小学部入学時点でレベル6に達していた7名を除いた20名のうち14名つまり70%の子どもは、小学部以降に聴覚活用レベルがJANT検査で1〜4段階伸びています。つまり、少なくともこの結果からは、手話を使うことが聴覚活用を妨げているとは言えないでしょう。むしろ逆に、手話を使うことで装用時期の遅れを取り戻しているかもしれない、とさえ言えるかもしれません。
図2:数唱聴取検査の成績と平均聴力レベルとの関係
図3:最近1〜3年間のJANT検査個人別得点の推移
4.言語力および補聴器装用時期と聴覚活用との関係は? それでは、聴覚活用を促す要因は何なのでしょう? もちろん、子どもが「聞くこと」への興味をもち、音を楽しめるよう日常的な指導や配慮が必要なことは当然です。手話や指文字を多用する本校では、特別にこのことを強調しておく必要があります。「聞くこと」に対する私達の“過ぎるほど”の配慮があって、ちょうどバランスがとれると考えておくべきでしょう。
さて、今ここで考えてみたいのは、まず、「言語力」と聴覚活用との関係です。図2と図3から、まず90dB以下の子は聴覚中心に言葉を聞き取り、会話できるレベルに達するということが言えるでしょう。但し、知的障害がある場合は必ずしもそこまで達しない場合もあることは図から読み取れます。言葉の聞き分けは単に聴力だけでなく、「言語力」が必要とされるのです。実は2年前、全校的に実施した「呼名聴取検査」得点と他の要因との関連を調べたことがあります。この検査は、教室で子どもの名前を呼んだ時の子どもの反応を調べたものですが、この反応のレベルと「言語学習能力診断検査(略称ITPA)」の「言語発達指数」との間にはかなり高い相関(r=0.69)が認められ、聴覚活用レベルと「言語力」との間には一定の関係があることが示唆されました。私達も日々の子どもの観察から、「子どもの言語力が伸びてくると聴能が伸びてくる」という実感がありました。このことと関連して、最近の人工内耳の症例研究からわかってきたことがあります。それは、全く聴覚が使えず手話・指文字・文字などの視覚に頼っていた人が、人工内耳を装用して意外と音声聴取の成績がよいということです。つまり、内言語(音声日本語とは限らない)が確立されていれば、それまでの聴覚経験の有無に関わりなく音声聴取は可能になるということでしょう。こうした知見と2で述べた 部分の知見、さらに私達の得た検査結果などからあわせて考えると、手話(sign language)と日本語(language)と聴能(listening)とは、脳の中では想像以上に密接に関係しあっているのかもしれません。
次に、補聴器装用開始時期と聴覚活用の問題ですが、先に述べた「呼名調査」では、聴能レベルと装用時期との間にはあまり高い相関は見られませんでした(r=0.48)。 ただ、90dB以下の子は別として、「(突然呼ばれても)自分の名前ならわかる」のは90dB〜115dBで遅くとも幼稚部1年目(3歳代)に装用、「誰が呼ばれているか区別できる」のはいずれも乳幼児教育相談段階(3歳前)で装用した子どもでした。また、JANT(図3)では、言葉の聞き分けができるレベル4以上の子は遅くとも幼稚部2年目(4歳代)には装用し、装用年数も4〜5年以上経過している子どもでした。さらに、幼稚部3年目(5歳代)以降に装用した子は、いずれも韻律聴取の段階であるレベル1〜2でした。こうした検査結果から仮説的に言うとすれば、@110〜115dB以下で、A遅くとも幼稚部2年目(4歳代)に補聴器を装用し、B言語力が向上すれば、言葉の細かな聞き取りができるレベルまで到達できる可能性は大いにあるということでしょう。聴覚活用に遅いということは決してありません。あきらめないで地道にコツコツとやっていきたいものです。
新製品紹介
松下電工 光るチャイム EC170
本誌のような情報誌を発行していると様々なお問い合わせを頂戴する。珍しいものが、住宅メーカーからの照会で、聴覚障害者の方から自宅建築の相談を受けているが、どのような設備が可能かを伺いたいという問い合わせ。だいたい年に2回ぐらいはある。この際、テレビループのことや、フラッシュライトなどを紹介しているが、フラッシュライトやパトライトはインテリア的に部屋に合うものがなく、工事現場のものを持ってきたような印象さえ受けるデザインが悪い製品しかなかった。今回、松下電工から市販された「光るチャイム」はチャイムとして音が鳴るほかに、フラッシュランプが光るという共用品として作られている。松下ならではのすっきりしたデザインで部屋にも合いそうだ。なお、カメラ付きドアホンとも接続できる。製品は、システムとして接続可能な EC170(8000円)と、電源コード付き EC170P(8600円)の2つがある。
照会先=〒571-0050 門真市門真1048 松下電工鰍gA機器事業部 TEL:06-908-1131。
補聴器新製品
スターキー A675 シークエルAV
スターキー社はA675シリーズに、新たにシークエルAVを追加した。AVとは、「オーディオビジョン (Audio Vision)」の略語で、指向性が強いマイクを積んでいることを意味している。
ところで「指向性」とは、ある特定の方向からの音を他の方向からの音に比べて強く入力できる特性のこと。マイクが前を向いていると、向いている前からの音は良くとらえることができるが、後ろからの音は弱くしかとらえられないという性能のことである。指向性マイクを使うと、前の人の声は良く聞こえるが、後ろからの呼びかけは聞こえにくくなる。
補聴器に指向性マイクをつけると、面と向かって話すとき、前の人の声は良く入ってくるが、周囲の音=雑音は抑制できる。この雑音抑制が指向性マイクを使うことの意味となってくる。
今までも指向性マイクを持った補聴器は市販されていた。しかし、その指向性は弱く、それほど大きな効果が見られなかった。今度のシークエルAVは、指向性が極めて高く、正面と背面とで25〜30dBの音圧差が生まれる。実際に視聴してみると、補聴器の向きによる指向性の大きな違いを耳で確かめられるほどだ。
補聴器の内部回路は、歪みの少ないシークエル回路を用いており、基本的な性能は、A675シークエルと変わらず、素直な再生音を持っている。スイッチとして、【指向性=指向性なし=Tコイル】の3モードが用意されている。このため、ボリュームがスイッチ兼用になっている。AO/CF/CH/CLの4つの音質調整器。外部入力端子付き。FOG=75dB(peek)、SSPL90=139dBSPL(peek)と、 重度難聴児でも使用できる余裕のパワーを持っている。 178,000円。
照会先:スターキージャパン
〒224-0041 横浜市都筑区仲町台5-2-20 TEL:045-942-7226 FAX:045-942-7158。
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